虐待かなと思ったら… 189 虐待かなと思ったら… 189

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第二回緊急シンポジウム議事録

2003.06.10お知らせ

高瀬礼子氏(東京都養育家庭連絡会)
山元喜久江氏(広島乳児院)
佐伯裕子氏(三鷹市子ども家庭支援センター)
金井雅子氏(東京都児童相談センター)
松本伊智朗氏(札幌学院大学)
三好洋子氏(自立援助ホーム憩いの家)
武藤 素明氏(児童養護施設二葉学園)



プログラム



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レポーター


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会場全体


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会場発言者


緊急シンポジウム

~子どもと家族の現状から日本の未来を考える~


日時 : 6月10日(火) 11時~13時 (開場10時半)

会場 : 衆議院第二議員会館 第一会議室 




<平湯> 

総合司会ということで、紅白みたいですがやらせていただきます。今日は5月30日に続きまして第2回ということで、引き続き大勢の方にご熱心にお集まりいただきました。この趣旨は、もちろん言うまでもありませんが、それぞれの思い、意見、実情などをお話いただくと共に、国会議員の方々にも聞いていただき、あるいは国会議員のご関心のほどをお話いただく、という貴重な会でございます。本日はさっそく、衆議院の、山内恵子議員がいらっしゃっています。お急ぎのようですので先に、ご挨拶をお願いしたいと思います。



<山内議員> 

皆様始めまして、社民党衆議院議員の山内恵子です。1回目のシンポジウムの時には社民党の保坂さんや北川さんが参加していたっていうのが書いてありますが、私は本部科学委員会ですので、直接この法案に関わっているわけではありません。ですが私は、小学校の教員をしておりまして、とある教職員組合にいた時、この法案を作るという時でいろいろ勉強をし、いろいろ議員の皆さんとお話をしました。もう一度改正という時に、何をどうするのかということではなくて、勉強させていただこうと思ってきたんですけれども、名刺を出してしまったのでこんなお時間を頂きまして、ありがとうございます。 

 社民党では、一番最初の時から関わっております福島さんや保坂さんが中心になって意見をまとめてくれると思いますが、私も子どもたちの命が危うい所にあってテレビで見るたび新聞で読むたび胸をいためております。より良い法案になるよう私も頑張りたいと思います。時間がなくて次の会議がございまして失礼いたします。資料だけ頂いて後ろの席で、と思っていたぐらいです。でも皆さんのご熱心な討論がきっと次の改正の役立つと思いますので頑張ってください。私も頑張ります。



第一部  児童虐待防止法改正に向けての最新情勢報告



<平湯> 

ありがとうございました。それではさっそく予定の第1部ですけれども、プログラムでご案内のとおり、始めに児童虐待防止法改正に向けての最新情勢情報をお伝えします。一つは、国会の中の動きですが、これは前回にも多くの議員の方、保坂議員などからご説明ありましたけれども、衆議院の青少年問題特別委員会の議論が始まったということと、一昨年から議論を始めている参議院の共生調査会のほうも、その後もいろいろ検討した結果、決議が予定されているというのが5月30日の話でした。本当はもう先週ぐらいの予定だったようなんですが、国会が多事多難ということで来週か再来週に入りそうだということです。ただ中身に関しては、おおむね去年共生調査会が出したものよりさらに踏込んだものになっているようです。

 それから、衆議院の青少年問題特別委員会の検討の一貫として施設の調査視察なども予定されていて、6月上旬の実施というふうに5月30日にはお聞きしておりましたが、これも国会の色々な動きの関係で、まだ、来週になってしまいそうだということをお聞きしました。それからもう一つ前回の時にもお話しましたけれど、チャイルドライン議員設立推進議員連盟が、これは超党派の衆参両方集めた団体ですが、そこが精力的にこの問題に作業を始めるということで、5月30日以前からこの動きがありましたけれど、その時に配られたのが、今日も入っていますが、この後も集中的に作業をしておられまして、そのお話は後ほどいらっしゃる関係議員の方にお話を伺おうと思います。

 それからもう一つ、政府の方の動きとして、厚生労働省の専門委員会が、ずっと去年の12月から続いていたわけですけれども、6月2日にとりまとめの議論をされて、それで最終的には6月中旬の次回専門委員会で最終的なとりまとめが確定するとお聞きしております。それの中身は、ある程度ホームページなどで出ておりますけれども、かいつまんで言いますと、発生予防、初期介入、その後のケアと3段階に対応するそれぞれの部会がありまして、特に集中的に議論になりましたのが、第二の、それからケアにも関係しますが親への働きかけの最初の介入、それについて一定の改正が必要だという方向での意見に取りまとめになりそうだということです。

 さらにもう一つ、広く関心があります児童相談所の児童福祉司の増員、養護施設その他職員の増員充実ということにつきましてもいろいろ議論がされていたみたいですけれどもこれについては、厚労相の中に別途設けられる、社会的養護のための専門委員会というようなところで議論をさらにされるということで、今回のまとめの中にどれだけ出るのかはわかりません。そういうようなことで、今日は、専門委員会のまとめは間に合いませんでした。これを第三回にやる場合には間に合うと思いますけれども。その他民間のほうの動きとしましては、5月30日以降のものとして、日本弁護士連合会が意見書を出しました。要旨だけ一枚の裏表に書いてありますけれども、児童虐待防止法制における子どもの人権保障と法的介入に関する意見書。大きく、子どもの人権保障と法的介入、この二つに絞って意見を出しております。裁判所の介入がいろんな面で必要だということ。また福祉における子どもの地位が低いということを述べております。それからその他の民間の動きとしましては、もう一つ、全国児童相談所協会、これが毎年6月に所長会を開いておりまして、今年も中旬に開かれますけれども、これもまた要望書を出すということをお聞きしておりますが、これも今日までは間に合いませんでした。そのような動きを紹介して第一部とします。

 で、衆議院の保坂議員がお見えですので、最近の動きなどをお話いただければと思います。



<保坂議員> 

皆さんこんにちは保坂です。衆議院の、青少年問題特別委員でもあり、社民党では内閣本部会の副会長をしております。この児童虐待防止法につきましては、99年、今から4年前当時の青少年特別委員会で議論がありまして、ちょうど2000年の5月に解散総選挙を目前にかけこみで成立したという経緯もありまして、その当時も、関係者の皆さんの声や現場の皆さんの声、たくさん出てきたんですけれども十分に受け止めきれずに見切り発車となりました。とにかく法律を成立させろというとことでいろいろな不備な部分、手当てができていないということがあるのをわかりながら、まあ3年後の見直しということで、5年という論もあったんですが、3年にすべきだということで、今日3年目を迎えました。

 実は衆議院の青少年問題特別委員会では、厚生労働大臣の現状説明を受けまして、参考人質疑、そして施設の視察見学等々が予定にすでに組まれております。同時に、国会全体として見ると、参議院の共生社会に関する調査会で、ご議論があった、そして、具体的に改善点の指摘もですね、参考人あるいは現地調査などを通して見てきたということをお聞きしております。私が事務局長をしているチャイルドライン推進議員連盟というところで、2000年当時も勉強を繰り返してきましたが、2回連続で、児童虐待防止法改正に関わる勉強会のほうをこの議員連盟で支えてまいりました。その結果、前回先週ですけれども児童虐待防止法改正の改正検討会ということで、衆参両院の、やっぱり参議院でその議論をしてこられた方も、衆議院の青少年特別問題委員会で、前回法改正に関わった、あるいは今回新たに加わった方も含めて、週に一回、論点整理をしていこうという、議員連盟としてはそういう活動をしていこうということになりました。

 明日は厚生労働省、警察庁、そして法務省と、役所の方の現在の問題意識を交換したり、また来週は青少年問題特別委員会に先年の議事録をひっぱりますとずいぶんいろんなことが出ているんですけれどもなかなか実現していないということも多いので、何が実現していないのか、その論点を出していったりというふうに毎週続けていこうと思います。そして、国会の会期がどうなるかという問題が横たわっているのですが、しっかりと青少年特別委員会としても、積極的に委員長を始めとして、与野党合流してしっかりとした審議をしていきたい、ということになっています。同時並行、衆参とも、その超党派の勉強も下支えをするつもりで、青少年特別委員会のほうで法改正に向けた準備、作業、審議を行っていけたらと思っております。その際には、こういった現場の皆さんの声や様々な団体、あるいは個人の思いを持っていらっしゃるみなさんの声、そういったものをできるだけ幅広く受け止められる、そういった仕組みで今回の法改正を見直すことができたら、というふうに思っておりますので、よろしくお願いいたします。



<平湯> 

どうもありがとうございました。それから、少し前まで参議院にいらして参議院の共生調査会のほうでずっと関わっていらして、現在は衆議院議員の小宮山議員がお見えですので引き続きお話をしていただきたいと思います。



<小宮山議員> 

皆様こんにちは、小宮山洋子でございます。平湯さんにはNHKの時からずっとお世話になって、このところこの問題をずっとやってきておりまして、さきほどご紹介にありました共生調査会を、一年間ほど子どもの虐待の問題を、皆さんの中にも来ていただいた方いらっしゃると思いますけれども、報告をまとめまして、今回先日の選挙で衆議院に移ってまいりまして、また青少年問題特別委員会の委員にもなりまして、チャイルド議連も保坂さんとご一緒しております。

 それから、党の子ども政策会議の事務局長というものもしておりますので、すべて関わっております。会期の話がございましたけれど、おそらく7月一杯ぐらいかな、という話もありますので、その間にできるだけ詰めておきまして、解散総選挙のこともありますから、本当に目的のところに子どもの権利を入れるとか、根本的なところをどこまで入れるか、現在必要なものをどこで現実路線としてとっていくかとか、いろんなご判断があると思うんですが、なるべく皆さんのお話を伺いながら、いい形でこうして進められればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。



<平湯> 

ありがとうとございます。それではまた議員の方が見えましたら、そのつどお話を頂きたいと思います。プログラムでは第2部のほうに移ります。



第二部 子ども達の今日と明日を考える



<遠藤> 

自立援助ホームをしている遠藤浩と申します。前回は、市民現場からの報告ということで、乳児院、里親さん、そして児童養護施設、そして私ども自立援助ホームの方からの少し報告と要望を喋らせていただきました。今回は、その後こういう会があるならばぜひ話をさせてください、あるいはあの方に話をして頂いてくださいという推薦がたくさんありまして、たくさんの方が喋ることになってしまいました。そんなことから申し訳ないんですけれども、お一人の方が喋れる時間が大体7分ぐらい。7分で何を喋れるかっておっしゃられると困るんですけれども、7分ぐらいとなっておりますので、なるべく要約して、法改正のところでこの部分とこの部分はどうしても改善してほしいというようなことをこの場でお言葉を頂けたらと思います。

 前回の分と今回の分はテープ起こしをして一冊の報告書としてまとめまして、これも議員の方にお配りする予定にしておりますので、皆様の言葉がきちんと届くということを前提としておりますので、きちっとした思いをここで喋っていただければと思います。前回本当にいろいろと、具体的にこうしてほしい、こうあってほしいというお言葉を頂きました。今回もそれに引き続きまして、いろんな方々、そして前回お話になれない部署、あるいは部分の方たちにお願いしましたので、その辺のところをお願いしたいと思います。まず最初に、東京都養育家庭連絡会の高瀬礼子さんからお言葉を頂きたいと思います。



<高瀬> 

ご紹介いただきました高瀬礼子と申します。私は養育家庭連絡会の会長をやっておりますが、養育家庭も続けております。ですけれども、実際のところこういう問題に関わるということの重要さを感じつつもなかなか時間が取れず、うちの方が留守になることを心配しつつ、活動して、やっぱり多くの方に知っていただき、この制度を広げていくと同時に理解して頂かなくてはならない大事な時期だと思っています。能力以上のことを求められているんですけれども、会長ということで今日は来させていただきました。

 家庭で子どもを育てている中で、やはり社会と直結しているし、社会の問題を触らなければ子どもに本当の幸せは与えられないということを常々考えております。今私が話そうとしていることは、今年の3月に東京であったことなんですけれども、3月27日に依託になった子どもの一人が、姉妹で、下の子どもが今年定時制高校に入るということで、嬉しそうに教科書を持って帰りまして、先ほど文部科学大臣がいらっしゃるということで、ああ教科書だ、と思ったんですけれども、それを見せていただく中で、家庭総合という、「自立共生創造」というタイトルで、私たちが昔家庭科として習った教科書だと思いますが、その中に子どもが生まれてずっと年を取って在宅介護のことまで書いてあって、老人介護のことに関しては、まさしくこの教科書に書いてあるように、在宅でのケアが行き届いているなと驚かされました。

 しかしそれに比べて、児童福祉というものがどのようにかかれているかと申しますと、アタッチメントというのは大事な子どもの欲求充足と信頼関係の形成いうことに必要なことである、ということが書いてあります次の次の頁に、児童福祉のことが書かれてありまして、新しい教科書なので里親の紹介ぐらいあるかなと期待して読みましたところ、児童福祉とは、2000年5月児童虐待防止法がさだめられた。虐待の具体的内容、等が書いてあるその下に、児童福祉施設には、乳児院、児童養護施設、保育所、心身障害児自立援助ホーム、児童更正施設、という今日ここにお集まりの方に項目が全部出ているんですけれども、私たち家庭で養育する社会的養育の一翼を担うとされてきております養育里親のことが書かれていない。この教科書からやはり変えていってもらわないと、と思いました。これは学校に行く、手におえなくなり、なんとか養育家庭でケアにできる子どものことなので、平和に近いんですけれども、養育家庭に来る時点で保護観察のついている子どももおりました。なんとかそれでも今までなかったチャンスを、里親も一緒になって地域の保護司さん、保護監察官、いろんな関係の方たち、福祉事務所や学校の先生たちと協力し合って、私たちが家庭でできることとして、保護者として家庭で関わって、同じような間違いを起こします。やはり6ヶ月の間に車の免許を取って、学校の勉強はあまりできなかったけれど車の免許を持って社会に出るという経験をさせられた。それだけでも私たちは満足する、そういう里親のあり方に私自身は切り替えています。今までは小さい時から十分大きくなって自立するまで育てるのが里親だと思っておりましたが、たった一ヶ月でも三ヶ月でも、家庭で過ごす、という経験をもつということをこれからも多くの子どもたちが経験できるといいなあと思っております。

 里親の方にもなかなか、それだけの勉強する機会もありませんし、受け入れる準備もできておりませんので、そこらへんの、社会に非行を犯した子どもが特別極悪犯ではないんだということを理解していただくような、児童相談所の説明、養育家庭の説明なんかも、司法や立法が動いてくださらないと、私たちの小さな家庭の中までは届いてこないのです。他にも里親さんがきていらっしゃいますので、皆さんプログラムが進んだ後に、2分でも残りましたら。別の里親さんにお話していただきたいと思います。



<遠藤> 

ありがとうございました。あと3分残っておりますが、できたら、里親さんへの支援といったようなことで、高瀬さん何かご意見をお持ちですか。



<高瀬> 

はい、里親自身が、無資格というか、法人でもありませんし、単なる誠意善意というか、ボランティアという認識で里親制度がきたと思うんですけれど、先ほど申しましたとおり、司法とか病院とか、入院手術が必要な時の署名人として私たち里親がその立場にない、親権に変わるものがないということで大変苦労をしてまいりました。 

 近年は、23年前に子どもが万引きを起こした時には「里親ってなんですか、将来この子と養子縁組するんですか」って聞かれることもありましたが、この子どもは鑑別所とか拘置所とかに行きますと、「親じゃないんですけれどもちょっと」、というと、「あ、里親さんですね、どうぞどうぞ」という感じで面会が許されたり、審判を受ける時に保護者として立ち会うことができたり、少しずつは変わっているんです。それを特別の一箇所であることではなく、日本全国共通、子どもが何か起こしたときに里親もそういうところに介入できるような、親権とはならなくても、代行できるようないシステムがあると、地域で育てるのにより良いなと感じをもっております。



<遠藤> 

ありがとうございました。その他にもきっと里親さんやられていて非常に心細い思いをされているんではないか、子育てというのはいつも孤独と不安と自信のなさにありながら、ですけれども、そういう時に、ある意味のレスパイトも必要でしょうし、他人からの援助も必要だろうと思います。その辺のことは、また時間がありましたら、他にも里親さんが2,3人見えてるということですのでお話いただこうと思っております。

 第2番目として、前回乳児院の長井先生が、できるだけ愛着形成がきちっとなされるためには、2歳で分断されてしまう今の現状を、もうちょっと、母子分離、家族分離と同じことがすぐに2歳だと来てしまう、それをもう少し延ばせないかということで、児童養護施設が乳児院を運営できないものか、乳児院が児童養護施設を運営できないものか、という議題を投げかけられてお話始まりました。今日は広島からわざわざおいでくださった、広島乳児院の山元喜久江先生にお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。



<山元> 

広島乳児院から参りました山元と申します。よろしくお願いいたします。私は乳児院で生活する子どもたちの様子を話してください、という依頼で参りました。乳児院というところは、おおむね2歳までの子どもが生活する場所でして、先ほどお話にありましたように、2歳になりますと児童養護施設に措置変更ということで、まったく違う施設に、2歳の誕生日でもって措置変更されていくという、本当に短い期間でしか養育できないという場所です。

 私たちの乳児院に入所してくる子どもの入所理由のほとんどが、養育困難であったり、経済的な理由で入所してくるんですけれども、その裏に隠されているのは、虐待の中のネグレクトです。明らかにこの子は虐待ですよ、ということで入所してくるのはごくわずかです。乳児の虐待というのは命に関わりますので、非常に根の深い傷として心に残ります。その乳児たちの表情というのは、無気力で、輝きのない目をしていて、あやしても関心を示しません。抱かれることすら拒否してしまいます。その反対にイライラと落ち着きがなく、体を緊張させて甲高い声で激しく泣いて、抱いてもあやしてもなかなか落ち着くことができません。抱くと、とても体を緊張させて、石を抱いているような感じすら受けます。この子たちは安心することができないので、安心して眠るということができません。それで睡眠障害を起こしていますので、だっこして寝たかなと思ってもベッドに下ろすとすぐに目覚めてしまって、本当に甲高い声で泣いてて、この子はなんでこんなに激しく泣くことがあるんだろうというぐらい、本当に安心して眠ることができないという精神的な障害を、緊張感を持っております。

 一歳前後で保護されて乳児院にきた子どもは、普通1歳ぐらいだと母親と離れたり家族と離れたりすると一日中でも淋しくて泣いて過ごしますが、被虐待児は親と離されても全く泣くことすらしません。新しい生活に何事もなかったように溶け込んでいきます。おなかが空いたからと言って泣くこともなく、指を吸ってじっと我慢しています。そして、指を吸いながら眠ってしまうのです。 

 また暗いところを全く怖がらないで、大人を必要としていません。食事をきちんと食べさせてもらっていない子どもは、食べること、すなわち噛み砕くことができなくて、口の中にどんどん詰め込んでしまって、呑み込んでしまうということがあり、いつまでたっても、この子は満腹感がないのかしらというぐらい、ずっと食べつづけることをします。やめさせようとするものなら激しく泣いて抵抗します。そして、暴力的な扱いを受けた乳児は、這うことができて自分で移動することができるようになると、他児の上に覆い被さったり噛みついたり、あたかも暴力的な行動が体が染み込んでいるかのような行動をします。 

 また多動で、落ち着きがなく一つのことに集中する事ができないというようなことが見受けられます。このような被虐待児の養育の基本は、さきほどありました、アタッチメントの形成です。そのために、私たち乳児院の職員は、養育担当制をとっておりまして、一人の乳児に一人の職員が継続して関わることにしております。乳児が泣いて要求した時にすぐ答えられる応答的な関係を築いて、自分の要求を安心して表し、安心して甘えることができる関係を作ることを目的としてこの養育担当制をとっております。日々の養育の中では、多くの乳児と一緒に養育しなければなりませんから、担当児だけをずっと見ておくということはできません。そのために職員は、担当児が泣き始めると、養育ができませんので、おんぶをして仕事につくということもしばしばあります。勤務時間の中で、担当児とのんびり過ごしてお互いの信頼関係を作ることに務めております。

 また、甘えることを覚えてしまうと、しつこいほどの甘えを出してきます。それがないとだめなんですけれども、しつこい甘えと試し行動を、これでもかこれでもか、というほどの試し行動を起こしてきますが、そのしつこい甘えを受け入れるためには、今の人数の職員だけでは非常に難しく、そのために私たち乳児院は、多くのボランティアの方に頼んで、多くのだっこボランティアを受け入れております。ネグレクトな状態が長期にわたりまして、一歳半ぐらいで保護されたお子さんは、歩くこともできないでベッドの中で指をくわえて、うずくまったままの姿勢でずっといます。このような子どもの心を開くのは、大変なエネルギーと時間がかかりますが、乳児院で養育できる時間は限られておりますので、必ず乳児院から児童養護施設への措置変更があります。乳児院で安定した人間関係が築けないままに児童養護施設に措置変更されて、見ず知らずの生活環境の中でまた新しい人間関係を築いていかなくてはなりません。幸いなことに、私たち広島乳児院には児童養護施設が併設されておりまして、昭和62年から、乳幼児ホームというシステムをとっております。ここでは、児童養護施設に措置変更された後も、人的環境はまったく変わらなく養育できるシステムになっております。子どもを入所させることに納得していない親は、施設に対しての不信感が非常に強く、敵対心をもって施設にやってきて、強制的に子どもを引き取りたいと申し出ます。それは、夜であろうと昼間であろうと関係なく押しかけてきます。その対応で、身の危険を感じることもしばしばあります。乳児院では職員のほとんどが女性で、特に夜間は勤務者が少なく、危機管理の問題も現在切実に感じております。警察や児童相談所との連絡を密に行って、いつでも連絡した時に来てもらえる体制作りをして、夜間だけでなく、日中でも安全対策を考えていく必要性を感じております。以上で発言を終わらせていただきます。



<遠藤> 

どうもありがとうございました。前回は、その後を受けた養護施設の桑原先生が、本当に一人一人の子どもたちがいかに苦しみを抱えながら生活を続けているか、ということを詳しく話してくださいました。やはり本当にせっかく愛着形成されたものが措置変更されると言うことは、第2の母子分離家族分離が起きてきます。子どもにとってはもう一度、すごい負荷がかかる。そこを乗り越えていくには。そういった問題をやはりここで今度の虐待防止法の中では何とかその負荷がいかに少なくてすむかということを考えていただきたいと思います。

 次の話題は、家族機能の支援再生、となっております。これは本当は、私は、時間があれば、国会の会期さえ延びれば、これだけで2時間持ってしまうんではないかと思ったぐらいなんですね。ただ、会期が延びるかどうかとても見当がつかなかったので、とにかく今全部やりましょうということでやりますけれども、家族の再統合とかですね、今いろんな言葉が出てきています。虐待の子どもたちが家族に統合されていくのは果たしてどれだけの子どもたちがいるのだろう。私なんかは、7割の子どもたちは再統合できないだろうというふうにも思っていますけれども、その辺のところから、家族機能の再生支援ということで、三鷹市の子ども家庭支援センターの佐伯裕子さんからお話をいただければと思います。



<佐伯> 

こんにちは、三鷹市子ども家庭支援センターで相談員をしております、佐伯裕子と申します。私は、子ども家庭支援センターで、2箇所目の所に今いるのですが、1箇所目の所から7年間この仕事をしております。子ども家庭支援センターというのは東京都の独自のものでして、どんな背景でできたかといますと、今司会者の方から、再生支援のお話をということでしたが、そこのところでは後で児童相談センターの金井さんの方に。私は現場の方で実際に今どういうことが起きているのかということを踏まえながらお話したいと思います。 

 支援センターができた背景の中では、今までありました児童相談所の機関が、専門機関の傾向が非常に強く、住民の身近な存在にはなりにくいということですね。三鷹の場合ですと杉並児童相談所が管轄しているんですが、電車とバスを乗り継いでいかなくてはならない。多分皆様の地域でもそのようなことがあると思うんですが。ということで、内容的にも、深刻な相談をするところにいくのは難しさがあるということ。利用する住民からすれば、相談する窓口というのは市の中にも区の中にもたくさんありますが、どこに何を相談したらいいのかということが整理できないということ。相談したにしても、相談機関の連携ができておらず、一つのところに行って、また次のところに一から言うという、エネルギーが失せている方にはとてもしんどい作業というのがあったんですね。そのことと、複数のニーズを持つ問題家庭を援助しようとする場合に、相談機関がネットを組んで必要な援助やサービスを提供していくのに課題があるということ。

 そこのへんを東京都が整理しまして、平成7年から、課題としましては、すべての家庭と子どもを対象とする。子どもと家庭のあらゆる相談に応じるということ。子どもと家庭の問題に適切に対応すると言うこと。地域の子育て支援の推進をするということ。子どもと家庭支援のネットワークを作るということを大きな目的として、子ども家庭支援センターは出発しております。児童相談所のほうは、50万人に一箇所の割合を目指しておりますが、支援センターは10万人に一箇所ということで、非常に身近なところで、歩いていけるようなところで気軽に相談ができ、専門的な対応もできること、ということで設置されています。イメージ的には、資料の中に載せておいたのですが、第1次相談機関というのが子ども家庭支援センターですね。住民に身近なところであるということ。それと常に連結しながら第2次相談機関である地域の児童相談所、ここでは、ケースケースに応じて取っております。そして第三次相談機関として、東京都の場合には児童相談センター、ここのところと連携をとりながらやっております。日々の活動の中で感じていることなんですが、今までいわゆる相談員ですというと、市民の方住民の方に出向いて頂いての相談が主たるものだったと思うんですが、今はそういう形では、本当の深いところの相談には取り掛かることがなかなかできないという実感があります。どういうことかといいますと、実際に虐待の中で、発見されたその方が「自分の場合はこうです」なんて言う場合はほとんどないんですね。一番気づくところでは、関係機関です。関係機関のほうから連絡が所に入ってきます。その関係機関というのは、今お出しした資料の裏のところにあります。子ども家庭支援ネットワークと言うものを三鷹の場合には作っておりまして、この拠点としてもっているのが子ども家庭支援センターです。この関係機関のところからほとんどのケースが上がってくるんですが、実は、例えば保育園で、登園してきた子どもの目が腫れているように思う、よく見たら煙草だろうものを押し付けられた痕がある、どうしたらいいだろう。夏休み明け、子どもが登校してきたら、食事を子どもがむさぼるように食べて、人の2倍も3倍も食べている。「もう片付けるよ」って言ったら、その片付ける鍋にしがみつきながら立って食べた。こういうことが地域の中から入ってくるんですね。

 また行政機関ですので、様々な窓口にもいろいろな方がいます。例えば、育成手当ての申請にきた方が、支給日の一週間前にいらして、「お金が早く出ないでしょうか」って言った時に、窓口の職員が近づいて、「どうなさったんですかって」言ったら、「いや、子どもも私も食べてないんです。」こんなこともあります。ただ国民年金を払いにきた方が、「あんなことしてたら子ども死んじゃうよ」って言った一言で、よくよく聞いてみますと、隣のうちで子どもが酷く泣き叫ぶような虐待が行われてきた。いわゆる窓口とか、地域の住民の方、それから関係機関では、様々なところでのSOSに気づくことがかなり多くなってきています。その気づきが、じゃあもし間違えたらどうなんだろうとか、近所間のトラブルになったらどうしようということで、なかなかその声が吸いあがってこない現実があるんです。そういうことなく、まずは子ども家庭支援センターの方に相談してみよう、こんなことがあるんです、と市民の方が言えることで、私たちは行政として動き出すことができる、ということで今活動しております。件数としてはかなりあがっております。三鷹の場合には、通告で入ってきているのケースが、200件を超えます。

 先ほど言いました、待っているだけではなくということで入ってくるのが、その虐待をしてしまっている方たちが、皆様もお気づかれていると思いますが、精神的に負担感を持っている方、精神的に心のところにエネルギーがなくなっている方が多いですね。そういうふうに援助していくことに、相談員として入るというよりも、そのケースの入り方として、例えば家事援助者として入るとき、大きい子だったらパソコンの先生として入るとか、様々な顔を持ちながら、一番その家庭に入りやすい顔で入ってくる形で入れるのが支援センターのやわらかさではないかと思います。あとは関係機関の間と間のところのつなぎ役ですね。今まででしたら、動いていく中で、例えば児童相談所に連絡した。その手前のところで発覚してこういうことが起きているということがわかっても、じゃあそれを誰が掌握して関係機関をしっかりとつないで、このケースがこう動いていますよということを誰が教えているかというと、なかなかそういう機関がなかったんです。そういうつなぎ役ですね、関係機関の糊のようなつなぎ役が、今こういう状況ですというのをマネージメントするのも家庭支援センターの仕事の中に入ってきます。

 そして、ケースが動いてきた時、先ほどの再生ということですが、予防的な役割のところから、負担感を感じておられる方、もしくは心が深く傷ついているお子さんに対して、心的なケアをする必要があります。それは関係機関の中で、三鷹の場合には保健センターの方で、やっていますし、また近隣の病院とも連携を取ってそこの方で具体的な支援をする。有料で可能な方であれば有料のところをご紹介しますが、なかなかエネルギーがなくてまた経済的にもそれほど払うことができないというところでは、行政がしっかりとカバーしていく必要がありますので、・・・・しっかり相談できるような機能があるというのも大事かと思います。

 それともう一点、今多いのがDVケースです。DVケースの中で、今までは母子相談が、今回変わりましたね、母子自立支援員の方が相談に乗っていた中で、子どもというものが傷ついているのは事実としてもう皆さんご存知だと思いますが、子どもの視点により早く、ですから、DVというか母子のところに相談に入った段階から、いかに子どもの視点に立って相談を受ける人が必要かということを強化していかなくてはならないと思います。そうしないと子どもの気持ちに沿った援助というのができないのではないかと思います。

 それと、DVケースで保護されたケース、三鷹でも2ケース扱っているんですが、その間の監護権を取るのがとても難しいケースが現実としてあります。そうしますと、そのお子さんを、学校や幼稚園を保障しながらどうにか姿を隠して行っている場合でも、いつも子どもは揺れていなくてはならないんですね、恐怖の中で。ですからその辺をしっかりと子どもの視点にたった制度の見直しというものをしていただきたいなと思っております。



<遠藤> 

ありがとうございました。もう少し時間があった方がいいのでが、すみません。子ども家庭支援センターは東京都の中で三鷹市特有の形態ですか?



<佐伯> 

東京都で目指しているものはほとんど同じようなものを目指しているんですが、実は三鷹の場合は支援センターは市が直営でもっているんです。私も実は市の職員で、委託しているようなところがあるんです。センターによって形態が異なっていると思います。



<遠藤> 

なるほど。ありがとうございました。次に児童相談所機能の充実ということで、これも今の話と絡みが少しあるのではないかと思います。東京都児童相談センターの金井さんお願いします。



<金井> 

東京都児童相談センターの金井雅子です。まず、虐待防止法ができて、皆さんもご存知のとおりに、児童相談所は本当に虐待通報が集中しました。そのために、虐待の程度の軽いもの、私たちは鳴き声通報と呼んでいるんですが、軽いものから非常に重篤なものまで、すべて一緒くたに児童相談所に通報が入ります。通報が入りますとすぐに、緊急理事会議を行いまして、すぐに入ろうというふうになっておりますので、児童福祉司はいつでも飛び回っているというのが、児童相談所の実態です。

 さらに東京都では児相改革ということで、地域共有制、施設型から里親の方にシフトしていこうということで、あとは一番これが児童福祉司の頭を悩ませているんですが、相談システムの導入と言うことで、その三本の児相改革があります。この相談システムの導入というのはどういうことかと言いますと、児童相談所のいろいろな相談情報を全部パソコンに入れて処理していこうというので、それを今までは相談係がやってくれていたんですが、すべて児童福祉司がパソコンの前で入れなければ何も仕事が始まらない。というのが今の児童相談所の実態です。ですから、日々の相談が大変なだけではなくて、パソコンに入れるという作業をしなければいけないために、しかもそのパソコンが机の上に固定されているために、昼間面接とか、出張した後児童相談所に夜戻ってきてからパソコンに入れるわけですね。しかも土曜日も出てきてパソコンに入れなければ仕事をした形にならない、という現状の中で、毎日パソコンとにらめっこをしております。

 児童福祉司として児童虐待防止法の見直しということで議論をしていかなくてはならないということは皆重々承知していることなんですが、こういう忙しい中で、誰も声を上げることすらできないというのが、児童相談所の実態です。今日も、時間の調整がついた児童福祉司の私と、足立児相の三村の方が一緒にこのシンポジウムに参りました。三村のほうからも後で補足していろいろなお話をしていただこうと思っております。彼は虐待対策班というのをしていますので、より身近に、児童福祉司ももちろんそうなんですが、それ以上に虐待対策班というのは、虐待専門ですので、いろいろな意味でのストレスなどもあると思いますからそういう話も含めて話をしてもらえたらいいなと思います。

 私の方は、児童相談所の実態ということと、大変な事態をご紹介したいのですが、昨年全国児童相談所所長会で、国の方に提出した児童虐待防止対策の充実に向けての要請というものを、こういう冊子になっておりますので、皆さんどこかで目にされたかと思いますが、それについて少し児童相談所の一応まとめと言うことになりますので、ご紹介させていただきたいと思います。この所長会が出した要望というのは、5本柱がありまして、1つが虐待防止法の見直しに向けてということと、2つ目が児童相談所の体制整備ですね、ここが福祉司の配置基準の問題ですね。福祉司が足りないので増やしてほしいとか、心理とか一時保護所の職員の数をもっと増やしてほしいとか、ということです。3番目が児童福祉司の体制整理ということで、児童福祉施設の方が先ほどもお話ありましたので重なる部分もあるかと思いますが、児童相談所の立場としても、それにプラスして、一時保護委託にかかる経費を充実させてほしいという要望を出しております。

 4番目の柱が虐待を受けた子どもや親への支援強化ということで、親の指導プログラムの体系化とか、精神科医によるカウンセリング事業のいっそうの充実と言うのに加えて、カウンセリング費用を、受ける場合に無料にしてほしいとか、被虐待ということが主訴で入所した場合の費用徴収を児童相談所が取らなければならないんですが、そういった費用徴収を免除にしようといったような要望を所長会のほうで出しております。

 5番目が、虐待防止のための関係機関の取り組みの強化ということで、保健所とか、病院と連携をさらに続けていこうということと、三鷹を始めとする子ども家庭支援センター等、虐待防止ネットワーク事業を充実させていこうということが柱になっております。で、1番目の虐待防止法の見直しに向けてということで、所長会のほうでまとめたものをご紹介しますと、1番目としましては、司法や警察の積極的な関与をもっとしてほしい、ということです。具体的なことにつきましては、これは全国ですから各県によって温度差がありますので、具体的なところまでは意見集約ができておりません。立ち入り調査のときに、もちろん警察は立ち会ってくれますが、もう少し積極的に警察の方が関与してほしいとか、こういう調査は児相ではなくて警察にやってほしいとか、そういう意見が書かれております。それから2番目としましては、親権の一部の一時停止制度の創設と、虐待をした親に対しての有効性のある指導の確立、を出しております。実際に仕事をしていますと、大変で、細かなことを気づいて声にまとめていかなくてはいけないと思うのですが、なかなかそういった時間がないと言うのが児童相談所の児童福祉司の実態です。

 少しPRになるのですが、児童相談所の児童福祉司の方は自主的な勉強会ということで、夜、児童福祉司の研究会というものを持っております。その研究会の方には、西澤哲先生に来て頂いてケアについて勉強したりだとか、弁護士の磯谷先生に来て頂いて、虐待防止法について、どう児童福祉司として取り組んだらいいかということを考えるとか、さきほど児童相談所の色々な改革の話をしましたけれども、地域共有制ということでこれは具体的には児童相談所の児童福祉司が担当地域を持っていたんですが、担当地域を全く持たずに、いろんな相談に誰もが、どの児童福祉司でもが対応できるようにしていこうというシステムです。そういう地域共有制について児童福祉司としてどういうふうに考えていったらいいかとか、そういう問題について児童相談所の児童福祉司としては勉強会をしております。続けて、三村の方から具体的な話をして頂いていいでしょうか。



<三村> 

足立児童相談所の三村です。昨日病院からこんな連絡がありました。生まれて1ヶ月の子どもです。外傷性の脳内出血、それから頭蓋骨骨折、緊急性の硬膜化症が見られるので通告するという連絡が入ります。児童相談所はこういう時すぐに行くわけですけれども、こういう時に関係機関のネットワークがいかに児童相談所では大切かと言うことがあるわけです。このお子さんについては、とりあえず通告する、虐待かどうかはわからない、後は児童相談所のほうに任せる。こういったことをやられてしまいますと児童相談所としてこのお子さんを守るのにどうしたらいいか、非常に困ってしまうんです。

 ですから、金井の方からありましたように、児童相談所だけでは虐待と言う問題についてはとても解決できない実態があるということ。それと、弁護士さんの方から出ております今回の意見書にもあります、立ち入り調査権。何か、立ち入り調査というものが児童相談所に任されているわけですが、立ち入り調査がすべて児童相談所の権限で何でもできると思われがちなんですが、例えばチェーンがかかっている。これはなかなか開けることができません。チェーンを切ってまで中に入るということは不可能です。

 だいたい虐待をしている親と言うものは、我々も含めて第3者、関係機関の介入というのを頑なに拒むわけです。先日もチェーンがあってなかなか介入ができなかったケースがあるわけですが、親族の同意を持ってなんとか中に入った途端、子どもがあと2日間遅かったら衰弱死していたというお子さんを無事引き上げることができましたけれども、これにつきましても児童相談所だけでなかなかできなかったわけです。ただ、そういったことで児童相談所に全ての、先ほどのお話で子ども家庭支援センターというものもありましたけれども、重いケース、重篤になってくると余計児童相談所が単独で何かをすると、しかし単独でやって二階に上がったはいいけれどいきなりはしごをはずされてしまう、という実態がまだまだ児童相談所を取り巻く状況ではあるわけです。ですから、追い込んで、一方で強い権限を持たせるということもあるんですが、それ以上に、虐待という問題を、地域の中でどうやって解決していくかという連携の問題を重要視して考えなければいけないということと同時に、その権限を付与することによって、何でも児童相談所というよりも、イコール子どもは全て家庭から離して母子分離をして保護してそして成長するんだということがあるわけですが、それは先ほどありましたように、家庭の中にいたんであればすぐに死んでしまうとか命が危ないとか、そういう重篤なケースはもちろん親子分離が必要ですが、ただ、家庭の中で在宅支援をもってして生活する、先ほどもありましたが、家庭の再生であるとか、あるいは援助によって生活支援することによって生活できる家庭をも作らなければ、やはりこれからはいけないんではないかとも思います。

 保護だけではなく、在宅できちんと生活するということの援助もこれからは求められてくるのではないかと思います。ないしは、予防というものもこれからは必要になってくるのではないかと思います。



<遠藤>

どうもありがとうございました。私の中では、よく耳に入ってくる問題が、児相も一時保護所が一杯なものですから、どこに子どもを保護したらいいかわからない。そうすると児相のほうで、とにかく定員を増やしてくれ定員を増やしてくれということになるんですね。要するに、本来は愛着形成をしていくためには、定員は減にしていかないと愛着形成はできない。けれども児相のほうでとにかく定員を増やして入れてくれと施設に言っていく。そうするとどうしても定員を増やさざるを得ない。

 今でも大舎制で定員が100人を超える施設がたくさんあるのが、120人、150人なんていう定員にしていったら、愛着形成なんて非常に不可能になっていくと。その辺のところを私はもう少し、公的機関と民間機関が、さきほど金井先生のお話の中に、児童社会福祉施設の体制と整備っていう問題が出ていたんですけれども、そこのへんのところを民間の児童養護施設と公的機関が練って練って、これはかえってここに入れていくことは、虐待の回復にならないっていうような話し合いが、色んなところでできるようになるといいんですけれども、意外とできていないんです。これは児童相談所という公的機関は、意外と地方に行けば行くほど威張っているところがありまして、命令系統が非常に強いんですね。黙って従わざるを得ないようなところがあるんですけれども、本来はこれはやっぱりお互いに受ける方と頼む方が相当に話し合いをして、よりよき施設の体制と整備ができると本当はいいと私は思っています。

 本来はこの虐待防止法が作られる前に、もっともっと民間機関と公的機関の話し合い、それは子どもを中心にした話し合いですね、おっぽり投げる、定員がっていう話し合いじゃなくて、子どもがどう育つかっていうことが、本当はもっと話し合われている必要性があったんではないかと思います。

それでは最後になりますが、松本伊智朗さんにお話をしていただきたいと思います。松本さんは今札幌学院の大学の先生でいらっしゃいますけれども、長い間イギリスにいらして、イギリスの福祉を見ていらっしゃいますので、そこのへん、日本の児童福祉法と比較してお話をいただければと思います。



<松本> 

札幌学院大学の松本と申します。子どもの虐待防止団体の事務局長もしております。緊急シンポジウムに出てきなさいというのが先週の末でえらい緊急な話で、急いで作った資料がお手元に裏表のものがあります。イギリスの福祉制度から何をわが国に生かすかということで、たいそうなタイトルがついていますが、出来合いのものをまとめただけですので。多分出てきて話しなさいということになったのは、イギリス政府のガイドラインの半ば翻訳をして解説を書いたということで、そのことについてなんか喋れということなんだと思います。見ていただいたらわかるように、イギリスの政府ガイドラインは、子どもの保護をしていくのに、どのように関係機関が連携をしていくか、それは個人の努力とか工夫とかではなくて、かなりきちんとした制度的なフレームワークを、どう作るか、ということが長々と書かれております。

 イギリスでは大体どこでも、大枠このとおりにしている、と考えていいと思います。イギリスの制度の特徴っていうのは、ひとつには子どもの保護ができる裁判所命令が、わりと使い勝手がよく柔軟にあるということと、関係機関がどういうふうに連携を取るか、ということでかなり具体的なことを決めて、それはそれでうまいこといっています。もちろん失敗することもありますが、それは時間の都合上省きます。逐一ご説明していますととても7分では済みませんので、彼らはこのような制度をどのように作ってきてどのように維持しているのか、ということを一点ご紹介します。

 彼らが制度を作っている作り方の勉強です。実はこれ、ここにもってきたんですけれども、八章なんでパート8レビューというんですけれど、日本でいえば自治体ごとに、地域子ども保護委員会というような、関係機関が合同で作っている責任と権限を持った機関なんですけれども、そこがその地域の子どもの虐待など、最終的にはそこが責任を負うわけです。で、その地域で死亡事件とか、重大な失敗だと思われるような事件があったときには、ACPC,area
child protection community というんですが、ACPCが、なんでそういうふうになったのか、それはどこをどうすれば防げたのか、ということを報告する報告書を作るんです。つまり、レビュー、見直しをするわけです。それは死亡事件や重大な事件という時には必ず作られるんです。それが、例えば児童相談所内部の中でのうんぬんとかではなくて、関係の機関で、第3者も入って必ず作って、そのディテールはまれに公表されることがあります。私はそれを、見たことがありますが、かなり詳しい。それは基本原則は非公開なんですが、結果どういう提言があるかということは公開されるんですよ、ACPCで。元本は日本でいったら厚生労働省みたいなところに行って、そこからどういう制度を作る、改善につなげる。つまり、レビューの仕組みを持っていることが、彼らがこの制度をこうしようああしようというふうにして、少しずつ新しいものにしていく一つの原動力です。それは、今のはパート8レビューといって必ずやりますが、それだけではなくてもっと深刻な関心事を呼んだような時には、それとは別に政府の方で調査委員会を作ってレビューをするということをします。

 今日は、どれだけ騒ぎになるかということをお伝えするために、新聞を持ってきました。これはガーディアンという新聞なんですけれど、ガーディアンだからというだけではなくてタイムズも同じ扱いです。これはビクトリアちゃんという女の子です。簡単に言うと最高裁で判決が出た次の日の新聞です。一面トップでこんなに大きく扱われています。

 いろんなことがあって要は失敗ケースです。中をあけると中も関係記事なんです。これは政府の偉いさんで、何を言っているかというと、これは重大なケースなので、内閣で調査委員会を作る、という話です。それを受けてガーディアンは、例えばこれはミスドチャンスイズだっていうふうに彼らなりに分析をして、どこで失敗したのかということを書いているわけです。彼らなりの分析をしているわけです。次の日の新聞はさすがに一面トップではないんですけれども、同じように大きく出ております。お医者さんの誤診だとかいろいろ書いてあるんですけれど、調査報告をするんだったらこの点をちゃんとやってもらわなければだめだ、ということを書いています。これを各紙が報道します。

 これは調査委員会ですが、この間、調査委員会の報告書が2年がかりでできて、僕もまだ入手してないんですが、このように具体的にこういうふうにやり方を変えたらよいというような提言があるようです。実は、この子はマリアという名前の子どもなんですが、過去にも幾つか同じような事件があって、過去にこんなことがあったじゃないか、という話が、30年前の事件の写真がまだここに繰り返し出て来るんです。

 先ほど申し上げたACPCというのも、70年代のマリアちゃんの事件の時にも提言が作られたようなんです。こういうふうに細かいところをどうするかということは、地域や国の資源が違いますのでそのまま形だけ真似はできないと思いますけれども、やっぱり失敗ケースをどう生かしていくか、という仕組みをきちんと作っておくと、少しずつでもかなり長持ちしていく制度になるんだということを痛感いたします。それは彼らと話したときによく言われたことです。なぜdeath
caseの分析をお前らはしないのか、と。もう一つは、彼らの失敗は、子どもの保護ということにかなり力点をおいて制度を作ったので、少し日本流でいうところの子育て支援だとか、いわゆる関連領域のDVとの関連だとか、そういうところが出てきます。そういう、どういう広いところにチャイルドコレクションの仕組みをもう一回置きなおすか、ということが今の議論です。その中に、実は日本でいったら児童養護施設や里親さん制度の充実の問題だとか、保険の整備や、養護施設であったスキャンダルのことをどう考えるか、ということがリンクしています。リンクして、そこも含めて、チャイルドコレクションの問題としなくてはだめだ、というのが最近のトレンドです。



<遠藤> 

どうもありがとうございました。プログラムですとすぐに次の第3の対話形式というところに入るんですけれども、あまり時間が過ぎますと質問をするところがボケてきてしまいますので、ここで皆さんのご意見を頂きましてから、後で第3部に入らせていただきます。



会場参加者発言



<若狭> 東京都養育里親

東京都で里親をやっております若狭と申します。児童虐待と里親とどのような関わりができるのかな、ということを考えてきておりますが、里親さんの話を、一般的な里親さんで虐待された子どもを受け入れることができるのか、ということで、できないとおっしゃる里親さんもたくさんいらっしゃると思います。そんな中で、ぜひ虐待された子どもも受け入れていこうというお子さんも増えつつあると思うんですね。さきほど乳児院の先生のお話もありましたように、乳児院に入れられている子どもが、乳児院で育つというフィルターをかけられてその後里親さんに委託されている訳ですから、実際に今、里親さんに委託されたお子さんも、実は虐待を受けてきたという経験をもつお子さんは多い、というのが本当のところだと思います。

 虐待を受けたお子さんをそのまま里親さんに、というふうには考えにくいと思われているかもしれませんが、実際はそのようなお子さんを受け入れていることがたくさんあるということです。それで、私は何が足りないのか、何がこの先必要かと考えているかと言いますと、さきほど高瀬さんからもありましたように、里親と言うことを世間に知られていないために、なかなか世間で話が通じにくい。特に裁判になったときも、もちろん里親と言うのは、特に養子縁組をしていない里親と言うのは、何の権限もないんですね。児童相談所にその権限はあると思いますし、児童相談所からの委託を受けて私たちは養育しているのですが、育てている私たちが全く話をしていく場所がないということが、困っていることです。そのような困ったことが裁判所のような大きなところでなくても、窓口、学校、そういった細々とした所でも、お医者さんとかでも、今での養育の難しさにつながっている。ただでさえ虐待などで心の傷があっていろいろ養育が難しいお子さんを預かっているのに、世間での認めが少ないというところで困っています。ですから、今度虐待防止法改正に何が関われるのかなって思うと、条文の一つ一つには関われないですけれども、里親があるということはぜひわかって頂きたいとう気持ちがあります。

 子ども家庭支援センターの取り組みの中で、地域との連携というところをとてもおっしゃっていたんですが、その地域という表の中にも、里親というものは入っていないんですね。なぜ里親は入っていないんだろうというふうに思いますと、やはり区市町村では里親登録はしていないですね、都のほうで里親登録をしていますので、区市町村ではあまり預かり知らない。

 それから、区市町村の中で里親さんがどれだけいるかと言いますと、私は荒川区に住んでいますが、荒川区には里親さんは、4、5軒しかありません。その中で委託を受けている里親さんは3軒です。そんな3軒のために区や市が何かをしてくれるかと言いますと何もしてくれないですし、逆にあてにもしてもらえないわけです。とてもあてにしてもらっているのは、ファミリーサポートの方々であったり、家庭福祉員という方々であったりしますけれども、ファミリーサポートの方々は時間に限りがあります。お父さんやお母さんが見ていられない夕刻の間という形の何時間、家庭福祉員の方は、朝の9時から5時まで、保育園がやっている時間内、という時間の制限がありますが、里親というのはお泊りもできると。そういうふうなところで関われないかなと思う里親さんはとても多いと思います。けれどもやはり何しろ里親というものはなかなか利用されないですし、認めてもらえない。とても困っているところですので、ぜひその辺りを周知していただきたいと思います。



<遠藤> 

ありがとうございます。ちょっと中断しますが、今、水島議員が見えていますので、お時間がありませんので、一言お願いします。。



<水島議員> 

皆様本日もお疲れ様です。ただいまご紹介をいただきました、民主党の水島弘子でございます。第一回のシンポジウムの時にもお伺いさせて頂きましたけれども、青少年問題特別委員会での審議の様子などを、少々ご紹介させていただいたところですけれども、第一回から第二回の間に、ここのところ委員会の活動の中で私が少々改善できたかなと思うことをご報告させていただきたいと思います。今ちょうど厚生労働委員会で、次世代育成支援推進法案というのをやっておりまして、国の政治の方では、少子化少子化と騒いでいるわけですけれども、私は、少子化少子化と言う前に生まれてきている子どもたちがちゃんと大切に育てられるような仕組みを作らなければ、この問題の根本的な解決にはならない、現に生まれた子どもたちが、どういう育てられ方をしていると思っているんですか、という観点から審議に当たらせて頂いています。

 次世代育成支援と言うのも、当然これは家庭に恵まれなかったお子さんも入っているんでしょうね、ということを質問させて頂きまして、アタッチメント、愛着のことなどをちょうど答弁していただきましたので、ちょうどいいと思いまして、2歳になると乳児院から児童養護施設に措置されるという問題について先週の金曜日に質問させていただきました。本来家庭で育つ子どもがいろいろな事情があるにしろ家庭から分離された子どもがようやく愛着を育て始めようかなというところで生まれてから2年の間に2度も分離体験をするというのは大変な問題ではないですか、ということを先週の金曜日に質問致しました。これにつきましては副大臣と大臣から満額回答をえることができまして、速やかに改善したいということでございましたので、これについては、近々改善されるという見通しの元に留保できるお子さんができるのであれば、この仕組みが出来上がるまでに何とか現状のままで待っていただきたいなと思っております。これは全く同感でございます、という答弁が出まして、必ず変えますということでございますということですから。

 もう一つはあまり本質的ではないかもしれませんけれども、今内閣府で、少子化社会対策基本法と言う法律をやっていまして、この中でも、「子どもを生み育てる者」という言葉がずっと出てきまして、「生み」と「育てる」の間に「、」を入れていただくということを勝ち取ることができました。細かい重箱の隅みたいなことだと思われるかもしれませんが、生み育てるのが全部一人の人が今やっているわけではありませんから、里親さんのこと、あるいは養子縁組をされる方のことを考えますと、この「、」というのは、今度はそちらにはサポートがいらないのかということになってしまいますから、今は産む人育てる人、それが同一人物であろうとなかろうと、子どもたちに関わる人たちをちゃんとサポートしていなくてはいけないのです、という意味をこめまして、何とか与党を説得して「、」を入れてもらうことができまして、本当にくだらない話に聞こえるかもしれませんが、本当にこれが、育てる人をサポートするということで次の話につながっていきますので、小さな修正ですが、全部で二十数か所あったのを全部「、」を入れていただきましたので、少しは実が取れたかなと思っております。

 これがここのところの小さなご報告なんですが、第1回目の時にいらっしゃっていた方も多いと思いますが、青少年問題特別委員会でこの虐待防止法の見直しに向けての作業に入っておりまして、先日はこちらにいらっしゃる平湯先生を始めとして参考人招致ということで来て頂いて、とっても良いご意見を頂いて、そのままテレビで放映したかったと言われるぐらい質の高い審議をすることができました。私は今、野党側の筆頭理事という仕事をさせていただいておりますので、参考人に平湯先生をお願いしたいなど、ずいぶんと自分の意見を言える立場でございますので、本当にいい参考人審議ができたと思っておりますけれども、今国会の会期の延長がどうなるかというのが、これはもう完全に与党内の政局ものになってしまっていて、まったくわかりませが、おそらく延長にはなるでしょうが、その中で今国会でどこまでやっておくべきか、どこまでやれるかということを見ながら視察などをきちんと、視察もきちんと計画はできているんですけれども、会期がいつまでになるかということでどこに入れるかという判断を待っているところでございます。

 これから政府への質疑をしながら。ただ今回、政治家っていうのはどうしても手柄がほしくて拙速に何をやってしまうというところがありまして、皆様のこの3年間の思いをしっかりと実にしなければならないとかですね、親権の柔軟で多様な制限のあり方ですとか、そういうところに踏込まないような改正だったら意味がないということを廻りの議員の人たちに話をしまして周知徹底をはかっているところですので、ぜひ皆様のご支援を頂いて、待ちに待った改正と言うことで、本当にきちんとした改正ができるように引き続きお力をいただければと思います。今日はご苦労様です。今後ともよろしくお願いいたします。



<遠藤> 

ありがとうございます。私は個人的に水島議員にお願いしたいことがありまして、児童福祉法から外れた子どもたちのために、青少年福祉法の制定をぜひ考えていただきたいと。児童福祉法は15歳で働くともう福祉がないです。そういう子どもたちがたくさんいてですね、行き場所のない子どもたちがたくさんいる。青少年福祉法というのが15歳から25歳、虐待のために少し病気になった子どもたちがそのぐらいの間、福祉を受けられるような議員立法をお願いしたいと思います。

 さきほど里親さんのお話を伺いましたけれども、ごもっともだというふうに思うところが本当にたくさんあったんですね。その辺のところで、関連していても違うことでも何かご意見があればどうぞ挙手をなさってください。



<藤野> NPO法人:虐待防止ネットワーク鳥取  児童養護施設施設長

虐待防止ネットワーク鳥取というNPO法人をやっております養護施設の施設長です。この間も鳥取でですね、虐待対応ということで、児童養護施設、うちの施設なんかで、5人ぐらい、家裁の職員をつけていただいたりですね、今年は再統合ということで、保護者へのケアをする職員を、なんとか施設に配置していただいたり、ということを一生懸命要望しているんですけれども、やはり虐待防止法が変われば国レベルでできるのではないかと。鳥取県の財政も、いつまでこれは国の肩代わりをせにゃならんのかという話で。でもなんとかできるんじゃないのという話で進めております。

 それでこの間もあったのが、今国が職員を増やしても、あるいは児童相談所の職員を増やしても、きりがないという話がもう一方ではあるんです。でもぜひやってほしいのでと言っているんですけれども、要はですね、虐待防止法ができても、なんでもかんでも児童相談所に児童相談所にということで、厚生労働省もマニュアルを、全部児童相談所に通告しさえすればそれでOKという感じのことをやっちゃったんですね。実際にはそうではない。やっぱり児童相談所に全てを任せるというのではなくて、児童相談所でなければできないようなことがありますよね、強制権をもったことだとか。ただ実際の子どもたちの状況というのは、そこにいくまでのグレイゾーン的なことがいっぱいあるんですね。児童相談所の処理を見ますと、継続指導というのが圧倒的に多いですね。それは溜まる一方です。

 それから施設にも、550ある児童養護施設は満員で溜まる一方なんですね。そこで何が行われているかというと、自分のところも含めてですね、第二のアビューズが行われていると僕は思います。ですから、そこを何とかしないと、これはどうしようもない。ですから今回の改正で、そこのところを何とかしなければならない。そのためには、全部児童相談所に任せておけばいいということを、やめなければならない。そのためには、民間の力というか、例えば保健士さんですとか、多種多様な機関の連携をとるということをしなくてはならないだろうと思います。そういう意味でぜひ何とか、今度の虐待防止法の改正の時点を逃したらだめだと思いますので、地方でも頑張りたいと思います。



<遠藤> 

ありがとうございました。時間の都合で、もう一人だけ。



<勝亦> 児童養護施設職員

こんにちは、児童養護施設の職員をしております勝亦と申します。今現在私は小舎制のところで、月に10泊、一人で24時間体制で6名の男女混合2歳から18歳までの子どものケアを、虐待を受けている子どもも、他の長期入院の子どもも含めてやっています。私は今まだ独身なのですが、結婚もしたいし、実際に自分の子どもも育ててみたい。でも園の子どもも大切にしたい。けれどもなかなか子どもたちの方を、ごめんねと言ってやめることもできない。なかなか自分の人生を、というふうには考えられないのが今の児童養護施設の現状です。

一つ提案があります。この養護施設、東京はわりと住み込みではなく通いという形なんですが、地方では住み込みのところがほとんどです。その住み込みの施設の職員の方も、私と同じような悩みを持って仕事をやめられていきます。ですので、その職員の方たちを、ぜひイントロとして里親としてやってみないかという形で、施設で少しの経験がありますから、一般の里親さんを、ターゲットと言ったら失礼ですが、増やすよりも、施設の職員を今度は里親に、今度は専門里親に、というような形で、少しでも施設での経験が生かされるような形で制度を作ってほしいと考えています。

 あともう一点ですが、私は今現在10泊していまして、一人で6名の子どもを見ていますが、今の児童福祉法では6人の子どもに対して職員1人ということになっていますが、労働法で8時間なので、かける3で、24時間だと実際には18名に対して1名の児童職員がつくというふうになっています。虐待を受けている子どもを一人の職員が18名も見られるわけがありません。この法律自体がおかしいと思います。ですので、今現在、幼稚園で、職員が一緒に5、6名の子どもを連れて行く中で、一人の親御さんが、二人のお子さんや一人っ子のお子さんを見ている状況があるので、一般の家庭のお子様でも、両親がいて一人っ子だという中で、虐待を受けている子どもに対して、若い、まだ結婚もしていない、大学で専門の勉強をしていますが、勉強も人生経験もあまりない中で、やっている子どもに対して、一名の職員が5、6名の幼児に関わるのはやっぱりおかしいと思います。是非、議員の方が声を上げて国会に制度として届けてほしいと思います。



第三部 思春期を迎えた子どもたち



<遠藤> 

それではこれで第2部を閉じたいと思います。次は、武藤先生と三好さん、ちょっと前へ出てきてください。今までだいたい、里親さん、乳児院、児童養護施設、児童自立支援施設は入っていませんけれども、自立援助ホーム。自立援助ホームだけが特別違う話をしましたけれども、前回は短くお話しましたので、今回は三好さんにお越しいただいてお話していただこうと思います。武藤先生とお2人に来て頂いた意味は、今までは施設内にいた子どもたち、というふうに捉えていただけると結構です。ただ、児童養護施設も、15歳になると働かなければならない。それから高校に進学した子は18歳で施設を出ると働かなくてはならない。15歳から18歳という思春期の一番難しい時期をですね、施設を出て一人住まいしなければならない。そこのところに焦点を当てて皆さんとお話ができたらと思います。まず武藤先生に、帰るべき家庭のない、15歳、18歳で施設を出なければならない子どもたち、傷を負いながらも出なければならない子どもたち、そういった子どもたちが、施設でどう苦労して、その子どもたちをどう支えているのかということをお話し頂ければと思います。



<武藤> 

児童養護施設二葉学園の武藤素明です。遠藤さんの方から、ぜひ児童養護施設の子どもたち、また施設を出た子どもたちの状況を含めて話をしてくれということだったので、本当は今、勝亦さんが話されたような内容、それから鳥取の藤野さんがお話されたような内容を含めて、今の児童養護施設の不備な点を多々、怒りというかそういう点でお話したかったんですけれども、それは前回、京都の舞鶴学園の桑原先生がお話されたので、そこは少し置いて話をしたいと思います。今日は時間がないということなので、一つ二つお話します。

 第二部でお話されたことと、若干関連するような内容でお話したいと思います。子どもの事例ですが、うちの学園にいた卒園生で、生後まもなく、10日ぐらいで乳児院で預かったという子どもです。乳児院に来てさきほどのように1歳半ぐらいになると、養護施設に行くと。その子は、幼児施設に行ったんですね。幼児施設というのは、また小学校に上がる時に養護施設に変更しなければいけない。ですから、乳児院にいて幼児施設にいてそして二葉学園に来た子どもですね。その前に里親さんのところに行った経験があります。里親体験で、結局うまくいかないということで、それで養護施設に入ってきた。養護施設でも非常に不適応を起こして、なかなか地域で生活ができないという状況で、いわば非行を一杯起こしたんですね。そういうことで、自立支援施設にいくということになる。で、自立支援施設を卒園後、15歳になって出ることになり、一旦会社で働くんだけれども、まったく定着できない。

 結局は里親さんや私たちの学園の近くでうろうろしている、ということで、金を貸してくれよ、いやもう貸す金はないよ、ということで、このままいくとちょっと住むところもないしだめだろうということで、自立援助ホームにお願いをして、自立援助ホームで生活をしていて、ただ自立援助ホームでもなかなか適応できない。ということで最終的には、3年前のことですが、盗んだバイクで、車の中に突っ込んでしまって、そのまま即死状態となったケースがあります。今日皆さんのお話を聞いている中で、葬儀の時に皆が集まった時に、もう少しこれを何とかできなかったのか、ということを皆涙ながらに話をした、ということがあります。

 先ほどのイギリスの新聞じゃありませんけれども、失敗例を本当に制度にしていくということがすごく大事だと思います。日本は福祉が、一定の生活レベルが保たれている割には全然制度が進んでいないんだなということを、現場の方からも感じます。今回、私たちもそういうことに、一部関わらせていただいたということであれば、そういう失敗例をもっともっと制度化する、それから私たちがその間に、どういう関わりが必要だったのかということを反省し考えながら、反省ばっかりしていても生き返るわけじゃないですから、そういうケースを2度3度と繰り返さない、ということを含めてもっともっと制度を作っていなくちゃいけないじゃないかなと思います。

 児童養護施設を出て行った子どもたちがなかなか社会に適応できない。今虐待を受けて入ってくるものですから、虐待の心の癒しみたいなものが十分できない。昔は児童養護施設の大きな子どもたちって、非行に走った子どもたちが多かったんですが、最近のケースとしては、反社会的というよりは、どちらかというと非社会的というんですかね、社会に適応できない。それから人間関係が全く保てない、という子どもたちが多かったりして、先ほどの遠藤さんの話じゃないですけれども、そういう子どもたちが15や18で出て行って社会に適応できるかといったら全くできない。

 今の日本の不況の中で、一つの正規の仕事につくというだけでも困難な状況な中で、心のハンディキャップを抱えたままでやっていく、ということは非常に大変だと。結局は施設の方で、私たちが親に代わる保証人っていうんですか、携帯電話にも仕事つくにもアパートを借りるのにも保証人が必要ということで、私たちがなるんですけれども、結局そこで定着できない、その後のケアをずっと私たちがやるということで、お金も必要になってきますし、人手も必要になってきますし、私たち自身のやる気も必要になってきますけれども、実態からしますとなかなかそうはいかないということで。

 だからもう少し18歳ということで切るのではなくて、ただ措置をどんどん伸ばしていけばいいのかといえば、そうではないと思うんですね。やっぱり自立をするためのプロセスのメニューを多くしていかなくてはならないのではないかと。昨日も東京都の人たちと、そういう制度をどうやって作ろうかとずいぶん話をしてきたんですけれども、大きな施設の中でやっていくのはやっぱりむずかしいだろうと思っています。ですからそういう点ではグループホーム的なところ、あるいは利用的なところ。自立援助ホームがありますけれども、自立援助ホームもやはり財政的なところだとか人的なところだとか、非常に不十分ですね。そういうところも含めて法に乗っからない部分の体制整備をやっていかないと、さっきの事例じゃありませんが、それぞれが一生懸命に関わるんだけれども結果的には放置してしまう、ということになって一番肝心なところに手が差し伸べられない。

 先ほど遠藤さんが、青少年福祉法をと言いましたけれども、そういうことを整備もぜひお願いしたい。児童虐待法の改正、それから次の児童福祉法の改正に、青少年法の制定、そういうことも含めてやっていただきたい。私たち自身がやっていかないといけないなと思います。

 他にも今日は、例えば、平成13年に施設から出て行った子どもたちがどういった生活を行っているか、例えば150人にアンケート調査をしたんですね。そういう事例だとか、パーセンテージだとか出ています。それもぜひここで発表したいなと思ったんですが、話していると時間がないので。短く。649名が平成13年に東京都で退所していますが、その中で自立したのが145名。年齢は15歳から19歳です。自力で、保証人とか無しで全部自分でやらなければいけないという子がこの中の64,1%。それから1ヶ月の収入の幅の一番多いところが、10万から15万円というところ。今の東京の住宅事情からいって、最低5万から6万ぐらいのアパート代がかかるわけですね。もうこれはご想像になれると思います。正式な仕事についている子どもはなかなかいない。それから退職した経験がある子が1年半の中で、43%の子どもたちが退職した経験がある。生活の拠点が変更しましたかということで、35%の子どもたちが、生活の場所が変わり、転々としました。10%ぐらいの子どもが、4回から5回変わったということが出ています。

 それから、課題として1番苦労している点が何かと言いますと、昔は経済問題が一番に上がったと思いますが、今は人間関係が1番に来ています。なかなか職場の中で人間関係が作れなくてやめてしまうということがダントツです。2番に経済問題、3番に生活問題や情緒問題等々が出されています。ということで、非常に児童養護施設を出て行った子どもたちが苦労していると。よく元気で相談に来たりするんですけれども、直接いつもいつも相談に乗って上げられる体制にない、そういう余裕がない。もっともっと、出て行った子どもたちへの支援をしていきたいのだけれどもなかなかできない。今来ている子どもたちでもアップアップの状態です。出て行った子どもの家を訪問したり相談に乗ったり、ということがなかなかできなくて、職員自身、それから施設長自身、なかなか胸の痛む思いで仕事をしているというのが現状です。



<遠藤> 

ありがとうございました。そういった状態で養護施設などを離れていって、順調に行った子どもはそのまま行きますけれども、順調に行かなかった子どもはかなり触法行為に引っかかったりします。その受け皿になっているのがある意味で自立援助ホームと言っていいのではないかと思います。そういった中で次に自立援助ホーム憩いの家の三好洋子さんから話を伺いたいと思いますが、三好さんが今までホームに入ってきた子の中で、とても印象に残っている子どもはどのような子どもがいますか。



<三好> 

自立援助ホーム憩いの家の三好洋子です。一人ずつがとても印象に残っているという点ではどの子の話をすればいいと言う感じですけれども。



<遠藤> 

例えば就職の面ですとか、心に抱えている問題でなかなか立ち入れない子どもですとかで、三好さんにとって苦しい子どもさんという意味で。



<三好> 

この子は小学校5年ぐらいから養護施設で育った子どもですけれども、この子があるとき家裁から来て、その子が相談があるといって、夜中から明け方の6時ぐらいまで、毎晩来るんですね。話す内容は、施設の中での話、誰が滑った転んだというような実にくだらない話をずっとするんです。そういうことが2週間続いた後に、結構重い話をして、それは、お母さんが施設に入る前に、両手両足を縛ってお前を殺すと言って、やかんでお湯を沸かして、沸騰したお湯を彼のお腹にかけたという。それは彼が1回目に家裁にきたときに、彼がおなかが痛いという時に、普通子どもが緊張しておなかが痛いという時に臍の辺りを押さえるんですけれども、彼は脇腹を押さえていたんですね。で、押さえる場所がちょっと違うなと思っていたんですが、ある時彼がお風呂からパンツ1枚で出てきたら、彼がいつも押さえるところに大きな火傷の痕があって、その火傷どうしたのと言ったら、彼は慌てて隠して、ああ赤ちゃんの時に味噌汁をこぼしたの、と言ったんですね。

 その後少年院にいって、そこから帰ってきて、その後先ほど言った、2週間あまりのすごい時間とエネルギーの拘束をして、その後彼が言ったことが、そのやかんで熱湯をかけられたこと。「三好さんねえ、熱湯を皮膚にかけると、皮膚が沸騰するんだよ」と彼が言ったことがあるんですけれど、そんな彼は、お母さんを恨めないと言っていて、それは、彼はやられたことの恨み一つだけだけれど、「あいつは憎たらしいよ、だけれど憎めないよ、あいつには、やらなければならなかった苦しみと、やったことによる苦しみと、二つある。だから憎めないよ」とそういうことを言った子がいました。その子はもちろんその後荒れもし、話してしまったことで心の蓋が開いてしまって結構苦しい状態がしばらく続いたんですけれども。そういうこともありました。



<遠藤> 

そういう子は、私のところの子どももそうですが、非行を表出してきますよね。そうして非行少年というラベリングを必ず貼られてしまう。どこかで。その非行少年というラベリングをされてしまうということについて三好さんはどう思われますか。



<三好> 

非行というのは必ず被害者がいらっしゃるという点では、とても言いにくい事ではあるんですけれども、うちに来る子どもに関してだけ言えば、この子は非行によって、死にも病気にならずにも済んだのかな、という子が圧倒的多数なんですね。それはどういうことかといいますと、非行をやってうちに来る子どもたちのほとんど99%ぐらいの子どもたちが、かつて被害者であったという場合が多いんですよね、で、あるときから加害者に代わっていく。そこのへんのところを大人がきちんと承知していたいとは思うんです。非行の裏には必ず、かつて被害者だったという視点は忘れずにいたいと思います。

 ただ、被害者が出るという点では、だからいいというわけではなく、子どもたちの気持ちをわかっていたいという思いと、社会で生きていかなくてはならないことを要求すると言うことは別だという点で、遠藤さんのところも含めて、自立援助ホームの暮らしは、とても凄まじいと思うんですけれども。



<遠藤> 

皆さんの中でお聞きしたいことはありませんか?



<佐々木> 施設生活経験者(児童養護施設出身者)

佐々木朗と言います。私も、乳児院を出てから2歳から3歳ぐらいで児童養護施設に入りまして、16歳まで児童養護施設で暮らしました。16歳まで暮らした後、社会にぽんと放り出されてしまいまして、自分の身で体験したことを今思い出していたんですけれども、やはり15歳16歳で社会に放り出されても、まだまだ子どもと言いますか、自分で仕事で収入を得て自分で生活をしていくと言うことは大変難しい。けれども施設の中では全く教えてはくれない課題です。

 私も両親ともいなかったので、正直言ってかなり困りました。私の施設の中でも、就職をしたはいいけれど、人間関係がうまくいかなくて、精神病院に行ってしまったり、住む所をなくしまして、ホームレスになる子どもが多く見られました。私の施設では、15歳16歳、施設を卒業できる頃になったら、厄介払いぐらいで施設を出されてしまうんですね。私は施設の職員からよく思われてなかったみたいで、いってみれば非行少年、悪の根源みたいな感じで思われていたみたいで。

 あの子が出て行けば施設は良くなるんだ、施設から出て行けば厄介な子どもはいなくなって、施設を卒園してしまえばその後は面倒を見なくていいんだ、ぐらいのことを思っているんでしょうけれども、私もその後アパートを借りるために施設に保証人を頼みに行ったことも何度かあったんですが、全く聞き入れてくれなくて、いつも門前払い。数日間私は車の中で暮らしたこともありました。あとは経済的な問題で、お金がなくて、当時私は猫を飼っていたんですが、猫に食べさせるか自分が食べるかといことで、猫にご飯をあげて、自分は非常食を食べていたということもありました。そういうことから考えると、施設を卒業した後のケア、施設を出してしまえばいいんだという考えではなくて、その後のケアも考えてほしいなと思います。



<遠藤> 

三好さんにもう一度お聞きしたいんですけれども、自立援助ホームは、まだ全国に、無認可の所を含めて23しかないんですけれども、これがあまり増えないのはなぜなのでしょう。



<三好> 

1つにはやはり、経済的な裏づけがないということが大きいと思います。それともう1つは、あの年代と言うのは、エネルギーがよれてきているという年代でもあって、過去において困難な経験をしてきた子どもたちが、とぐろを巻いているエネルギー、行き詰まっているエネルギー、そういうエネルギーをいかに放出してあげるか、ということだと思うんですけれども。それに伴う、経済的な裏づけと同じですけれども、スタッフが少なかったりですとか、スタッフの中に余裕がなかったりというのが、どうしても増える方向に行かない理由の1つだと思います。



<遠藤>

お二人に、この改正の際に、どこをどう変えていってほしいかをお聞きしたいと思います。



<武藤> 

はい。今佐々木さんがご発言されたように、施設で長く暮らした子どもたちというのは、やはり施設がふるさとでありますし、人間関係がついている、おやじおふくろ代わりの、指導員や保育士のところに来たりするわけです。そのためには、今の児童福祉のあり方の根本を変えないと、今の状態の中だけではアフターケアはできないのではないか。そうするとアフターケアを専門のワーカーを作ればよいのか、という発想になると思うんですけれども、根本的な部分で一定の職員の配置等々をしていかないと、児童養護施設で卒園していった子どもたちの面倒を、後々まで見られるかというと、なかなか見られない。そういう根本の体制なり、人員なりの配置をやらないといけないと思います。

 それから多様な青少年に関わる居場所を作らないと。アフターケア施設というと自立援助ホームしかありませんので、もっと施設の中での、高齢児のホームだとか、半分措置で半分働いて、少し中にお金を入れながらやっていくとか、いろんな形態が考えられると思うんですね。ですから、今の時代ですから、法律を普遍的に考えるんじゃなくて、法律をもっと運用していくという私たちの努力も必要になってくるかと思います。



<遠藤>

三好さんのほうから一言、お願いします。



<三好>
 

先ほどから、青少年福祉法という言葉が出ていますが、金の卵と呼ばれた時代に比べて、今は子どもたちが大人になるのを、ずいぶんゆるやかに見ている社会の状況と言うものがあると思うんですよ。例えば大学を卒業しても大学院に進むという形で社会に出るのを猶予されていたりとか、そういう時代にあって、大きな問題を抱えている子どもにだけ、早く大人になれというのは、大きな矛盾があるように思えて。そういう意味でも先ほど言われた、青少年福祉法ができれば、そういう子どもたちを少し法律的にも守ることができるんではないかなというのが1つあります。

 それから、これは自戒を含めてですけれども、自分たちの実践の結果に謙虚でありたいと。先ほどから失敗事例という言葉が出ていますけれども、それをこれからどう生かしていけるかということを含めまして、私たち一人ひとりが、人間観というものをもう一度自分自身の中に問いただしてみたいと、そのことです。



<遠藤> 

どうもありがとうございました。時間がない中で申し訳ありません。最後に総合司会の平湯先生からお願いします。



終わりに

<平湯>

半分は私自身の個人的意見として。そしてもう半分はここにいる皆さんにとっての、改正ポイントということになろうと思いまして、少し話させていただきます。いろんな分野、いろんな意見があって、それがこの虐待防止法の一つの大きな特徴だと思うんですね。いくらこういう会をやっても語り尽くせない。その中で強いてワンポイント私は、虐待防止法の4条というのが決定的に大事だと思っています。

 この4条というのは、国及び自治体の責務ということでして、それはある意味で、虐待防止の基本的な位置づけを盛り込んだものなんですね。一枚資料がありますが、右が現行の4条、そして左が改正試案です。四角で囲んであるのが、虐待防止の課題です。左の一番上を見ていただきますと、発生予防早期発見、子どもの保護と回復、親への援助、これがすべて課題であるということは皆さんご異存ないと思います。ところが現行法では、その中で何が書いてあるかと言うと、早期発見と保護しかありません。とても十分ではありませんが、発生予防、あるいはその後の親への援助と言う、長期の視点がぜひ必要だと。

 それから課題のための具体的な施策として、現行法に書いてあるのは、下に線を引いてありますけれど、連帯の強化、職員の研修。具体的なのはこのぐらいしかありません。しかし左を見ていただくとわかるように、下線を引いたいろんなことが必要です。施設職員の増員も含めてですね。こういうものにしていくことによって、大勢の方のいろいろな意見というものが、ここにそのつながりと言いますか、それが見出せるのではないかと思います。そういう意味で、この4条の改正というのを、見直しの基礎にしていっておく必要があるのではないかと思います。