虐待かなと思ったら… 189 虐待かなと思ったら… 189

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第二回シンポジウムの議事録

2001.06.02東京都お知らせ

<設立シンポジウム> 津崎哲郎氏(大阪市中央児相) 加賀美尤祥氏(全国児童養護施設協議会副会長) 徳永雅子氏(北沢保健福祉センター) 西澤 哲氏(大阪大学大学院人間科学部助教授

シンポジウムの議事録

会場:明治学院大学(東京・港区)


1.シンポジストによる基調意見

(1)養護教諭

児童虐待防止法の制定により定義が明確になった意味は大きい。教職員は、虐待を身近にあることとしてとらえられるようになった。学校が連携する機関は、主に教育相談機関であったが、最近では、児童相談所が相談先の一つとして利用されている。厚生労働省の児童虐待防止についてのポスターやパンフレットは、相談先等も明示されていて、効果があった。
 虐待を知識として理解していることと、実際に動けることは別である。教師には、子どもの家庭状況や背景にあるものは見えにくい。今後は、「実務者レベルでの具体的な事例を通した研修」を企画していくことが必要である。例えば、教職員は「守秘義務」について誤った認識がある。子どもの生命に関わることであっても、情報を出すことに抵抗があるように見受けられる。学校内のスタッフでの事例の共有も難しい。通告には抑制的な管理職が電話の送受信をチェックすることもあり、勤務時間以外に、関係機関と電話連絡や相談をする者もいる。関係者に知られることを恐れて、通告を躊躇する者もいる。「児童相談所は、児童虐待防止法第7条の通り、通告者の保護」をお願いしたい。そして「虐待に気がついた教師個人が通報できる・通報しやすいシステム」を作ってほしい。
学校の役割には、限界があることを認めなければならない。「問題の発生~保護者を呼び出す・連絡する」という従来の指導では通用しない。その結果が、更なる虐待を生む可能性がある。子どもを信じ、注意深く観察すると、新たな疑問や不安が生じてくるので、更に研修が必要になる。
どの学校にでも児童虐待はあり、教職員は、早期発見、通告をしたい。通告後、児童相談所は、速やかな調査をし、問題解決をしてほしい。そのためには、学校と学校以外の各機関が役割分担をし、責任をもって子ども・家族支援をすることを望む。専門家の役割も重要である。
 将来、教師を目指す人は、大学で、児童虐待の存在があること、虐待の定義、どのような視点で子どもを見ていくのか学んでほしい。教師になった後の教育も重要である。


(2)奥山真紀子(小児科医・児童精神科医)

医者は「右向け、右」と言っても、右を向かない。虐待問題について牽引者となっているのは医者だが、底辺の多数に伝わっていかない。特に法律については疎い(法定伝染病が変わっても気づかない)。少しずつ虐待の認識は広がってきているが、どちらかと言うとマージナルな医者。
 医師には発見、介入、評価、治療、予防という役割がある。虐待の介入は一般の医療モデルでは対応できない。治療をしつつ、評価をして他機関につなげていく。プライマリーケアと専門医療を組み込んだ医療モデルをつくっていかなければならない。
司法医療という分野が日本では抜け落ちている。
課題は大きく分けると3つ。第1は医学教育のなかでの児童虐待の導入(卒前卒後教育)。第2は通告解怠の罰則、誤通告の免責の義務づけ(罰則をつけないと意識が変わらないだろう)。第3に被虐待児救出に対する財政的支援(虐待問題は手間ひまがかかる割に全くお金にならない)。
各県にひとつくらいは児童虐待の基幹病院を設けたい。プライマリーケアに対する後方支援。少なくともそこに行けば、虐待診断ができるようになるとよい(一般の医師にとって虐待診断は非常に困難)。
親のケアについては課題が非常に多い。大半の精神科医は5分間診療をしている。虐待親は精神分裂病など投薬によって改善する人は少なく、むしろ人格障害が圧倒的多数。しかし、人格障害に対する治療は全く確立されていない。医者に見せれば治ると考えるのは間違い。

 
(3)藤井東治(埼玉県中央児童相談所主幹)

 昭和50年に児童相談所に就職したが、そのころと比べて児童相談所は非常に変わった。昔は児童福祉司の本来業務の地域活動が出来る余裕があったが、今は「児童虐待児童相談所」となってしまい慌ただしい(なぜか虐待通告は金曜日の夕方とかにある)。
 埼玉県の児童相談所では、ある死亡事故をきっかけに通告受理後48時間以内に安全確認をすることを自ら義務づけた。中央児相の所長が所長会に諮りトップダウンで決められ、多くの児童福祉司にとって寝耳に水であったが、トップダウン方式で始めて実施できたと思う。ただし、その後の経過の中で、例外規定も決めた。(住所確定不能のとき、管轄外であるとき、18歳超過であるときなど資料参照)。
近隣からの通告は、「罵倒、泣き声通告」と呼んでいる。調査不要、調査不能というものも多いが、なかには非常に重篤なものがあるため、突撃訪問を行う。これは大変緊張感の高いもの。まず訪問すると激しい怒りにあう。「児童相談所の訪問」=「極悪非道の虐待」、「親子分離」という認識があるからであろうか、権限があるだけに反発がある。ただ、経験では問題がない先はあまり反発がなく、問題がある先に強烈な反発がある。最初は強烈に反発を食らうが、その後、ケアに結びつくケースもある。突撃訪問の緊張に堪えられなくて、退職や病気になる児童福祉司もいる。
福祉事務所等からの通告は、「丸投げ通告」が少なくない反面、かなり調査を経ての通告もあり、二極分化している。保健所等は、母親などの虐待者自らの訴えには、熱心に対応するが、第三者から、自分たちが「罵倒、泣き声通告」を受けると、そのまま丸投げをしてくる傾向がある。このような傾向から、児童相談所の一極集中が進んでいる。
児童福祉法改正については、第8条には「速やかに」ではなく、明確な時間制限をするべき。厳格にやってこそ、必要な人員が明確になる。また、児童相談所の一極集中は望ましくなく、各機関が受理時に必要な措置を講ずるために、その規定を明確にするものとする。虐待予防について市区町村が積極的に取り組んでいくよう、児童相談所から保健センター等他機関へ送致する道も定める必要がある。


(4)赤井兼太(大阪府堺子ども家庭センター所長)

 大阪は虐待の認知件数が多い。4月1日に虐待対応課を府の全児相に設置した。ケースワーカーと心理職で構成している。「虐待に特化する課をつくると、職員が潰れてしまう」という懸念がある。続けられて2年という声も。虐待親が包丁を持ってきたこともあるし、自宅に押しかけたり、心身症になって辞職した職員もいる。
新法ができて変わったのは、児童相談所の体質。これまではサービス提供型の体質だったが(優しい児相)、行政介入型の体質になってきている。専門職としてその体質改善をするのが大変である。
介入については整備されたが、保護した子どもが入る児童福祉施設については何ら改善されていない。一時保護所も然り(都市部はどこも満杯状態)。
 警察との連携も、重大な事件になると刑事警察が動いて福祉を度外視した対応がなされることが増えてきた(少年警察とは連携してきたが、刑事警察との連携はあまりなかった)。親の親権もあまり制限されておらず、児童相談所の強権との調整に注意が払われていない。親権に対する積極的な司法関与が望まれる。このあたりが虐待防止法の課題であろう。
子どもに対する治療については、入院治療は可能だが、そこから先の心理治療には手が回らない(もちろん通所指導はあるが、十分な状況ではない。原因はマンパワーの不足と専門的知識・技術の不足がある)。保護者の指導も、専門的スタッフがないことと、専門的知見がない。再統合も非常に難しい課題。試験外泊中に死亡するケースもあり危険性が高いが、羹に懲りて膾を吹くようなことになると再統合はおぼつかない。措置解除のリスクアセスメントをつくろうとしているが、有効性があるようなアセスメントづくりには成功していない。

大阪ではCAPIOという現場レベルのネットをつくってみた。児童自立支援施設を非行でない子どもたちの自立支援をしようとしている。
 共感的な行政機能を強制的な行政機能を子ども家庭センターのなかで総合的に運用していくことが課題。所長から現場の福祉司まで組織的な対応をしないとうまくいかない。
24時間、電話がかかってくる状態は非常にストレスフル。虐待の定義について、判断がしにくい(グレーゾーン)。法的な問題が多発している。行政訴訟、民事訴訟等が見られるようになり、職員個人が訴えられるケースも出てきた。個人情報の開示と子どもの福祉の調整という問題もある。
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(5)鈴木祐子(二葉乳児院)

 乳児院は家庭で子どもを養育できない時に、概ね2歳未満までの子どもを預かる。家庭問題解決型(離婚、家出、失業等)だけでなく利用型(次子出産、家族の入院付添等)もあるが、前者が増加している。
 
外国人の子どもについては平成8年をピークとして減少に転じている。平成12年の東京の乳児院入所児童646人のうち外国籍の子どもは104人。このうち6名が無国籍児童である。無国籍であることは教育、医療などの基本的な権利を得られなくなるので、できるだけ早く国籍取得できるようにしなければならない。
 虐待という理由で入ってきた子どもは37人だけだが、虐待の定義を広めに解釈すると、実際には半数近くいるようだ(親の精神疾患、知的遅れで充分に養育できなかったなど)。ごく少数だが遺棄もある。約300人は不適切な養育で生きていたと云えよう。
 胎内での虐待もある。母親が生みたくないという気持ちを持っていると、腹を叩いたりして子どもを大切にしない。その結果未熟児として生まれてくることがある。しかし、その因果関係を証明することはできない。母の胎内で既に傷を負っている子供たちは、ぐずったりして、手がかかるが、健康な子どもの何倍か手をかける事によって、傷が回復し、健康になっていくのだと思う。
 虐待が起こる場面(要素)。望まない妊娠、レイプによる妊娠(顔を見ると加害者を思いだす)、難産、援助者がいなかったためどうやって子どもを育ててよいのかわからなかった、授乳がうまく行かない、睡眠が安定しないなどなど。母親が崩壊家庭で育った場合で、親族の援助もなく、父親もいなかったり、周囲に協力してくれる人が少ない。しかも被虐待体験を持っていることもある。子どもをいったん預かって、保育者が可愛がり、子どもが笑うようになり、親にも笑うようになって、親が子どもを可愛いと思うところまでもっていってから再度愛着関係を構築するほかない。
 第1次反抗期のときの対応も困難がある。
 病院付設の乳児院には障害をもつ子どもが入所している。障害児のなかに被虐待児が含まれている。しかし虐待との因果関係は不明。そういう子どもは病気もしやすいし、後遺症を治すために充分なケアが必要である。家庭引き取りも困難。こういう子どもたちが乳児院にいるが、将来が心配。
 別のケース。産みの親が重度の障害を持った子どもを可愛がって、熱心に通ってきている例もある。障害のある子どもについても、年齢が高くなると職員の配置人員が減少する。ある障害児が5歳になり、その障害児用の風呂が必要になったが、現在の乳児院に年齢を超えた子どもたちの設備を予算化することは難しい。それでは5歳の障害児のケアはどうするのか。
 乳児院に入所してくる被虐待の乳児たちは、攻撃的だったり、人間関係が持てなかったり、情緒不安定だったりする。しかし乳幼児は早期に治療すれば治るので何とかしたい。(人手不足。他の子どもたちが家庭引取りになっていくと、家庭引取りができない子は情緒不安定になりやすい。)虐待された子は火がついたように泣く。それを聞くと保育者が虐待したくなるくらい激しい。保育者がその段階で充分にケアし、ある程度安定し、愛着関係が持てるようになったら、次の段階で里親委託、家庭引き取りも可能であろう。そこまでは乳児院の役割である。
 最初は子どもが安心できることが必要で、愛着関係はその後の問題。
 被虐待児童、情緒不安定な子どもには大人がかかりきりになる必要がある。しかし昼間でも3人の子どもを一人でみているので、どうしてもケアが不十分になる。子どもが抱っこしてもらいたい時に、すぐ抱っこしてあげる事ができない。勤務時間外に個別に係わって、やっと情緒的に安定させている。
 物を云えない子どもたちの訴えを、毎日表情や泣き声で感じている。
 法については、乳児院の子どものように物が云えないのだが、子どもの状態をみて、子どもの立場から虐待のリスクアセスメントをすべき。それに基づいて法的措置が取られるようにする。もうひとつは、親指導の方法。家庭の再構築のために親業指導の義務づけなどの手立てが必要。



2.質疑応答・意見討論

 
(磯谷):胎内虐待とは何か。また、なぜ5歳の障害児が乳児院に行かなければならないのか。
 (鈴木):胎内虐待は造語である。自力で流産しようと思っておなかをたたいたり、飛び降りたりするケースがある。
 
(赤井):障害児施設については、都道府県でばらつきがある。大阪ではおそらく重度心身障害児施設に入所させるだろう。


(荒川):CAPプログラムをやっている際に、傷などがみえることがある。判断基準はどうなっているか。
 (奥山):不自然な部位の傷はあやしい。

(木村):民間ボランティアの活用について。
 (藤井):大切な連携の相手である。障害児など専門のグループから知恵をもらったりすることがある。

(平湯):埼玉県の児童相談所では心労の余り退職する人もいるそうだが、実情はどうなっているのか。
 (藤井):各児相にひとりくらいはバーンアウトしている人がいると思われる。例えば人格障害の親とモロに対決。「自殺したらお前のせいだ」などと心理的に追い詰められる。


施設内虐待を許さない会:児童虐待防止法は家庭内の虐待防止だけを念頭に置いているのではないか。しかし、施設での虐待の問題もある。栃木の施設でもあったし、恩寵園でもあった。当局は児童から訴えがあると、施設に確認する。それでは隠蔽工作を勧めるようなものだ。当の子どもからは話を聞かないか、仮に聞いても職員の話とあう限度で認定する。施設内の虐待をどのように解消していくべきか考えていくべきである。

奥山:家庭でも施設でも学校でも医療でも、子どもや女性など弱い人を虐待する人がいる。それを許さないことを社会で徹底をしていくべきである。また、親権制度の見直しも重要。施設も親権代行だから、そこでの濫用も対応すべき。施設では身体的虐待だけではなくネグレクトも重要な問題。

赤井:大阪府では施設入所児には権利ノートを交付しており、児童相談所と連絡を取れるようになっている。十全に機能しているかどうかは問題だが。各施設に第三者委員会を設けている。本庁からの監査があり、処遇面の監査もやっている(都道府県によっては経理監査しかやっていないことがある)。大阪府では子どもから訴えがあると、直ちに児童福祉司が直接子どもと面接する。さらに他の子どもからも情報を取って認定する。

藤井:子どもたちから少なくとも年に1回は話を聞く。体罰の訴えがあると、まず埼玉県下の各児相にも実態把握の要請をする(具体的ケースは伝えず、通常の訪問等のなかで調査)。

倭文(しとり):足立児相の心理判定員(臨床心理士)。虐待防止法では家族支援という視点がないことに驚いた。虐待親に対する心理的な分析と、心理的な支援を考えなければならない。人格障害だと思われた虐待親でも、適切な支援で変わってきたこともある。社会全体で家族を支える手立てが必要だろう。

橘:衆議院議員田中甲の秘書(民主党は離党)。親権の一時停止なども民主党案には盛り込んでいた。ここでの貴重な議論を議員に伝えていく努力が必要。青少年問題特別委員会は廃止になっている。

池田:参議院議員田嶋陽子の秘書。今日の議論で専門職の支援と増員、子どもたちへの長期的なフォローが必要なのではないかと感じた。前者については、記者時代、バーンアウトを取材していた。人数をどう増やすかが重要だろう。

時田:衆議院議員植田むねのりの秘書。社民党案にも多くを盛り込んだが、はねられてしまった。現在、虐待防止法改正の動きはほとんどないが質問趣意書(回答が閣議決定される)を提出したところ、3か月くらい経って回答が来た。一両日中にネットのホームページに掲載する予定(掲載済)。ぜひ国会に来ていただきたい。

森:ネットワークは、ソーシャルアクションもやっていきたい。

吉田:今回も現場の報告をいただいた。この人の話を聞いてみたいという意見があればよせていただきたい。JaSPCAN兵庫大会のご案内とワークショップの協力をすることになっている件。次回のシンポジウムについては、保育所、司法関係(家裁、警察、弁護士等)からも報告をしてもらいたいし、比較法のシンポもやってみたい。



ネットワーク設立シンポジウム 議事録

(子どもの虐待防止センターHPより転載)
第1回「児童虐待防止法の改正を求める全国ネットワーク」シンポジウム
児童虐待防止法施行後半年を検証する--3年後の見直しに向けて--」
                         2001年6月2日
                       飯田橋セントラルプラザ
第1部 シンポジウム
【シンポジスト】 
  津崎哲郎(大阪市中央児相)
  加賀美尤祥(全国児童養護施設協議会副会長)
  徳永雅子(北沢保健福祉センター)
  西澤 哲(大阪大学大学院人間科学部助教授)
【司会】
  奥山眞紀子(埼玉県小児医療センター)
  森 望  (大分大学)
 
1 各分野からの報告
(1)津崎哲郎(大阪市中央児相)
 法施行以前から件数は急増中。平成12年分は厚生労働省の発表はないが、最近毎日新聞が全国の児相に調査をしたところ、17,689件だった。厚生労働省も同じようなデータになるだろう。
 死亡ケースも出ている。死亡ケースが出ると、全マスコミが児相に殺到し、所長は対応に追いまくられる。ちょうど10年以上前、イギリスでも同様の状況があり、担当ケースワーカーが顔写真入りで吊るしあげにあっているとの報告があった。当時は日本でよかったなあと感じていたが、現在は日本で起こっている。
 しかし、実際には死亡ケースをなくすことは困難。今後も少なからず出てくるのではなかろうか。ただ、関わる者にとってはつらいが、社会の関心が強まっているのも事実であり、以前と比べるとたたかれることは悪くない。
 現体制に問題があり、要員の配置が少なすぎるが、自治体が財政難で一向に改善しない。しかも自治体によって大きな差がある。児童相談所長の資格条件が厳しくなったが、加えて行政手腕もなければならない(財政当局とやりあって人と予算を取ってくるといったような)。
 児童虐待防止法では安全確認義務が課せられたが、実際のケースでの具体的な対処の仕方に現場は苦慮。方法論が確立していない。埼玉県では48時間以内にやっているが、必ずしも突撃的な方法で安全確認しても、どこまで真の安全確認ができるか、その後の福祉的対応につなげていけるのかという疑問がある。とはいえ、早期発見と早期対応は重要なファクターとして取り上げられている。多くの児相では24時間以内に対応しなければという意見が強まっているが、現在、平日はともかく休日の対応が困難。大阪市では一定の児童福祉施設が子ども家庭支援センターの役割を果たしていただくなかで、平日午後7時30分以降、休日等に通報の窓口になってもらっている。他方、今春から虐待対策班(4人のチームが2班)を設置して対応している。虐待対策班をつくって組織的に動きやすくなったが、どんどん通報がくる。児童虐待防止法で早期発見義務者として名前があげられた職種の人は「ほっとくとまずいのではないか。とりあえずつないでおこう」という思いから、次から次へと通報。すると全部に対応することは困難になっている。実態面ではしんどい。
 法律制定以降、最も変わったのは警察の対応。府警ではチャイルド・レスキューチームを設立。相当機敏に動いている。ただ連携上気をつけるべき点もある。警察は警察の論理で動き(すぐに逮捕しようとする)、福祉的対応とは異なる。逮捕すると福祉的対応が難しくなることもある(児童相談所に相談したことから逮捕されたとなると、反感を買う)。
 全国児童相談所長会は、場合によっては全養協と一緒に、要望を出そうとしている。少なくとも人口5万人について1人に増員。養護施設の職員を3対1に。潜在的な虐待事例についてネットワークを展開できるよう対応策を考えてほしい。
 
(2)加賀美尤祥(全国児童養護施設協議会副会長)
戦後日本の児童養護施設は広い意味の虐待を受けた子どもたちばかりであったと思い至る。そういう子どもたちにどういう関わりをしていたのか。
 昭和52年に職員対子どもは6対1となったが、それ以降変化がない。他方、労働時間は52時間から40時間に減少。児童養護施設の制度的貧困性は、児童相談所のそれとまったく同じである。
 新法制定後、心理職の配置、虐待専門要員としてのベテラン職員の配置(ただし定員50人以上の施設のみ)など、国はいくつかの施策を打ちだしている。虐待が追い風になって多少増員に動いたことは歓迎。
 ただ最近の虐待件数増加で、難しい子どもたちがどんどん施設に送られてくる。野戦病院のようだ。しかも児相できちんとアセスメントをしないまま施設に送られてくる。これも制度的貧困のひとつ。
 改正に向けての動きの一方で、施設の不祥事があり、そのため新法への動きの中で、施設が意見表明をしていくことができなかった。不祥事の要因のひとつに、重い課題を持って養護施設に入ってきた子どもたちと、それに耐えきれない職員。施設は内部改革をしながら「虐待を受けた子どもたちを守る最後の砦」という自負をしっかりもって運動展開していく必要がある。
 現在、全養協としては「児童養護施設近未来像パートⅡ」を立ち上げつつあるが、そのひとつは児童虐待防止法改正に向けての施策提言。さらには法改正の次にくるべき児童福祉法抜本的改正についても施策提言していきたい。

(3)徳永雅子(北沢保健福祉センター)
 アルコール問題に取り組む中で、家族内の暴力が見えてきた。次第にアルコール依存症の本人はさておき、家族の相談に乗るようになった。しかし医療は家族に介入せずという限界があった。
 1990年代になって、さらに家族内の暴力が見えてきた。ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力、虐待・・・。母子保健での対応も変わってきて、親子分離も辞さないという考えも浸透してきた。
 1994年に母子保健法が改正されて、事業の多くが市町村に移管。1997年の地域保健法施行され、福祉行政は母子から高齢者へと大きく移行する。母子保健はだんだん先細りの傾向にあった。
 しかし、2000年10月に「健やか親子21」(2001年から2010年までの母子保健計画)で、ようやく母子保健の再構築の気運が高まってきた。その4本目の柱は「子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の解消」(虐待死の減少、育児不安の母親減少、被虐待児報告数減少等)。
 児童虐待は児童福祉の仕事であって母子保健の仕事ではないという意見もあったが、むしろ児童福祉と母子保健のリンクが重要になっている。
 児童虐待防止法で虐待の定義もしっかり打ちだされ、保健婦の通告義務も明記されたため、児童相談所に通告しやすくなった。同時に早期発見義務も規定されたため、乳幼児検診の重要性が再認識され、保健婦の意識も変わってきた。児童虐待を発見するために乳幼児検診を見なおし、母親のかかえている悩みが表現しやすいようにスクリーニング・シート(問診票)などの工夫がされつつある。
 一方、児相との連携も進んでいるが、児相の管轄があまりに広域。児童福祉司が増加しないと、連携の進展にも支障がある。
 新法は見なおすべき課題がたくさんある。特に虐待親をケアし、再統合につなげていくプログラムをきちんと提示していく必要がある。保健所でもMCGを始めている。ドメスティック・バイオレンスの法律ができたが、虐待と密接な関わりがあることを認識する必要がある。虐待予防の重要性も明記してほしい(母子保健の意義としても大きい)。法改正の運動は市民も巻きこんで。
 
(4)西澤 哲(大阪大学大学院人間科学部助教授)
 臨床心理家の圧倒的多数は虐待とは関係のない分野で生きている。日本の臨床心理家は世俗離れしたところで生きていた。霞を食っていた面があるのではないか。ある臨床心理家の集まりで児童虐待防止法の成立自体を知っていたのは3割。一定の要件を満たした児童養護施設に臨床心理の専門家が配置されている。しかし、その人たちも児童虐待の認識が薄いと思う。
 まず、「養護」の考え方を変える必要がある。「養護」から「治療的養育」へのパラダイム転換はあちこちでやらなければならないが、特に児童養護。子どもの持っている様々な問題を解決していく養護に変えていかなければならない。施設では問題児を「処遇困難児」と呼んでいたが、最近その原因が認識されてきた。私も1996年に児童養護施設入所者の5割は被虐待という調査を報告した。厚生労働省の公表値ですら2、3割(なぜか里親委託の子どもについては4割)。従って、虐待を受け、心理的問題を抱えた子どもをどう治療するかというパラダイムで再構成していく必要がある。
 アメリカでは1997年に虐待件数がピークになったが、その後、ようやく減少してきている(取り組みから30年かかった)。1960年代、里親家庭で虐待が発生。そこで治療的里親養育技術の必要性が叫ばれ、里親に対して様々なプログラムを提供。被虐待児を扱えないから。現在、日本で施設内虐待が増加していることと似ている。日本でも同じように取り組むべき。
 日本では、養護では「養護技術」という視点がなかった。精神論ばかりが先行してきた。しかし、Love is not enoughである。イギリスでは子どもの数よりも多い職員を配置。基本的に1対1。日本は先進国のなかであまりに貧困。日本は児童福祉を犠牲にしてきた。
 養護施設への臨床心理家の配置をめぐる問題。心理職を魔法使いのように歓迎する向きもあったが、そういう万能的な期待は2、3か月くらいで潰れた。「心理を雇うくらいなら、職員を増加したほうがいい」という声も出てきた。その原因は臨床心理家が被虐待児に対する心理療法について技術を持っていなかったというのが正直な感想。
 これまで臨床心理家は、健康的な自我の発達のうえに一部病理がある子どもを対象としてきたが、被虐待では自我機能そのものに問題がある。これでは臨床心理家にも知恵がなかった。やはり子どもの体験を重視した心理療法の必要性、技法の確立が最重要課題である。
 「環境療法」(施設生活を活用して日常生活の中で治療を提供)を軽視する見方もある。臨床心理家は一般に生活に入っていかないが、これは問題。アメリカでは環境療法を重視。
 臨床心理士の養成過程で子どもの「現実」に対応する準備ができていない。決定的に不足している。厚生労働省は情短施設を増やそうという考えであるが、むしろ児童養護施設の治療機能充実が不可欠。情短施設を増やすほうが予算は少なくてすむが、それで爆発的に増えている虐待に対応できるか。この点をきちんと考えていく必要がある。一方、児童養護施設以外の児童福祉施設にも問題がある。虐待の結果、知的障害を負ったり、知的障害の結果、虐待を受けたりした子どもが障害児施設でも多数いる。
 
2 意見交換
(福島)四国では児相が県にひとつしかない。他方で、警察はよく動いているが、最近施設にいる子どもを事情聴取するのに施設長の拒否された例を聞いている。児童相談所ではどうか。

(津崎)警察は児相に協力することでは不満足で、「手柄」主義。だから逮捕したがる。単なる協力者では「手柄」にならない。よって、逮捕できる状況があると、逮捕を最優先する。時に児相に対し「告発してくれ」という求めもある。子どもが証言することが子どもの心理面でよくないこともあり、特に性被害の場合は事情聴取を断ることもある。

(磯谷)フォーレンジックインタビューが大切。本当は、初期に心理がきちんと聞いて他の機関がそれを利用するのが望ましいが、警察がやる場合も立ち合いは大切。ある性虐待ケースで子どもに「気持ちがよかったか?」というような質問をするので弁護団が抗議し、婦人相談員に立ち会ってもらったこともある。また事情聴取を拒否する場合でも、心理的理由をきちんと説明する必要がある。

(奥山)警察が動き出したことで、虐待罪を創設するか否かという議論が再燃するだろう。もうひとつは性的虐待。非常に不備が多い。定義も「保護者」からのものと狭く定義していることは誤り。

(川合)児童養護施設で働いているが、ついたたいてしまうこともある。このネットワークについては、最低基準引き上げについてもとりあげてほしい。
現場ではゆとりがない。技術も未熟。子どもの問題をきちんと受けとめられる技術が必要。

(加賀美)地方では東京よりもさらに厳しい。家族の枠組みが破綻し、社会全体が子どもを支えるべきだという認識が必要。

(西澤)パラダイム転換には哲学が必要。警察の問題については、警察も何をしていいか分からない。桶川事件以降、警察のアイデンティティが揺らいでいる。アメリカでは警察に虐待専従班がある。今のままの警察と連携するのではなく、警察も変わらなければならない。

(津崎)児相から見た難点。DV法では裁判所が命令を出せるが、児童虐待防止法は行政の自己完結的システム。これでは対応できない。やはり裁判所の親権制限などをかませる必要がある。親権の一時停止は結局取り上げられなかった(民法の親権喪失は回復可能なので、一時停止と同じ運用が可能との意見もあった)。しかし、裁判実務では親権喪失には極めて慎重。親権喪失後の後見人の成り手の問題。公的後見とセットにしなければならない。里親には親権代行等の規定がないし、20歳まで延長という規定もない。これでは里親が使えないので、整理が必要。あるケースでは里親が監護者指定の申立をしたが、認めた家裁審判を大阪高裁は破棄した。いわく「民法は他人に監護者を指定するシスムになっていない」。家庭裁判所との連携も強くなっているが、結論を出すのが最近えらくい早い。逆に長くかかっても家裁が調整すべきケースで、家裁が待ってくれない。何でも早く出せばいいというわけではないはずだ。家裁が遵守事項を定めて児相が関わるケースも出てきた。

(菊地)養子と里親を考える会。児童相談所に里親の支援態勢が非常に欠けている。児童相談所になぜ里親専任の職員を置けないのか。

(津崎)大阪では児相に里親専従がいるが、それでもジリ貧状態。里親制度を抜本的に見なおして、新たな意味付けをすべきではないか。ひとつは自立支援を必要とする子どもについて、これまでは企業が受けとめてくれていたが、最近は受け皿が非常に少なくなっている。企業としては利益優先で考えると敬遠する。職親制度を衣替えして(職親制度はあまり金が出ない)、自立里親を企業の中で定着させたい。実は私も5歳の子の里親をしている。非常に大変。だだをこねたりするが、それを超えると、実子と変わらない愛着関係が育つ。

(服部)3月まで横浜家裁で調査官。裁判所から外に出ていくことはなかなか難しい。また外からの意見を柔軟かつ迅速に受けとめることが苦手。しかし外からじっくりと話をしながら、一歩一歩話を進めてほしい。法改正まで3年を切っているが、最高裁家庭局に関係のある人と話をしたが最高裁家庭局自ら法改正に積極的に動く状況は、現時点ではなさそうだ。厚生労働省などと一緒に動くのが望ましいという立場だ。外で積極的に案を作成し、裁判所に検討してもらうことが現実的だと思う。

(竹前)元家裁調査官。裁判所は実に動きが遅く、世間の一番後から着いていく。ぜひ調査官に直接話をしてほしい。すると少しずつでも内部から変わっていくと思う。

(田中島)八王子児相で死亡事件があった。法的権限は児相に集中しているが、裁判所の活用も含めてもっと分散できないか。八王子児相の件ではどこでも発生し得る事件。児童福祉司は薄氷を踏む思いでやっている。地域のネットワークが進んでいるところも別の意味で、児童相談所との関係に悩んでいるようだ(「まだ児相には通報しなくていい」とか)。どう役割分担をするのか。またソーシャルワーカーの育成についても、全部考え直さなければならない。社会福祉士の資格をとっても老人のことしか分からない人が多い。ソーシャルワーカーの育成態勢を整えなければならない。八王子の事件も、連携のなかで落ちてしまったのでは。

(加賀美)予防のために、家庭支援センターの役割を拡充していく必要がある。

(浜田)児童養護施設から保育所、そして今は児童家庭支援センターをしている。センターは予防の重要な拠点になるのではないかと思っているが、財政的基盤が弱すぎる。児童虐待防止法施行後、大変混乱している。児童相談所は本当に専門的な分野での活動をしてもらい、それ以外の分野は児童家庭支援センターに。ケースワークの基本ができていない児相職員が多すぎる。児童虐待防止法の「虐待」という用語は、支援の中ではきつい。現場ではなるべく使わないように気をつけている。

(司会)国会の関係者も来ているので、国会の動きを説明していただきたい。

(阿部)日本共産党参議院議員。新法は衆議院青少協での超党派による議員立法であった。議員も意識をし始めている。3年後がすぐにくる。議員への働きかけが重要。DV法は、裁判所の命令があるものだが、最高裁も法務省も警察庁も不可能だといっていた。しかし年30回も集まって徹底的に議論して、最後は全会一致で通った。感動的だった。児童虐待でもかなり大変だと思うが、頑張ってほしい。

(時田)保坂議員の政策担当秘書だった。今は植田宗徳議員(法務委員会)のところにいる。「国会議員のレベルの低さが露見した」というが、その通り。自民党内では「子どもの権利」という言葉自体にアレルギーがある。親権の一時停止は法務省や厚生労働省が頑強に反対したためできなかったが、その後、厚生労働省は「事態の推移を見て」と言っているので、不可能ではないだろう。警察等の不適切な動きがあれば、具体的に教えてほしい。


  第2部 「児童虐待防止法の改正を求める全国ネットワーク」設立に向けて

(平湯)ネットワークの趣旨説明。まず今日までの経過について。今年の初めから有志で発案して、各分野で改正後の動きを集約するために、平成13年4月、ネットワーク準備会を開催。本日のシンポジスト以外にも多数の参加者があった(その内容は子どもの虐待防止センターのホームページを参照)。それぞれの分野で動きがあることが分かった。こういう動きを大きな動きにつなげて、社会へ国会へ広げていく必要があることが確認され、3年後の見なおしのためにネットワークをつくろうということで一致した。組織形態としてはいろいろ議論はあったが、それぞれの動きは尊重しつつ、ネットワークとしては緩やかな団体として、それぞれの動きをサポートするというイメージで大方一致した。施設の「底上げ」についても、施設関係者が運動し、これをネットワークがサポートすることで運動が広がりやすくなるのではないか。
 具体的な改正提言を集約することは「急がない」(しないというわけではない)ということになり、当面施行後の半年間で現場がどう変わったか変わっていないのかを明らかにするためにシンポジウムを開催することになり、本日の企画となった。
 以下は、当初発案した有志としての提案である。
 ネットワークの行動目標としては、各分野での情報交換と共同のソーシャルアクション、運営は世話人と事務局を置き、事務局はこれまでの有志が担当し、世話人になっていただく方はこれから相談させていただくということでいかがだろうか。
 当面の活動としては、本年9月、10月ころに、ひきつづき検証の集会をしたい。本日のシンポジストのみならず、医療、学校、法律家、警察なども検証したい。
 もうひとつの活動として、12月にJaSPCANの神戸大会では議論ができるようにしたい。これについては森田ゆりさんたちの会が先行しているが、合同でできればと思っている。
 以上について検討していただきたい。

(氏名不詳)横浜では被虐待児の5割は5歳以下。すると保育園、幼稚園が発見の場。それらの大きな団体に働きかけてはどうか。幼稚園は個人でやっているところもあるので、通報はなかなか難しいところがある。

(森)ネットワークのお知らせについては、東京の子どもの虐待防止センターのホームページを利用させてもらえることになった。これからもお願いしたい。
 ネットワーク結成の趣旨にご賛同いただけますか。

(全員)拍手

(森)ありがとうございました。当面は秋に集会を予定している。子どもの虐待防止センターのホームページをご覧ください。




3.ネットワーク準備会 議事録
(子どもの虐待防止センターHPより転載)

「虐待防止法の改正を求める全国ネットワーク」準備会
日時:2001年4月21日(土)13:30~17:00
場所:飯田橋セントラルプラザ11階A会議室
参加者:
 徳永雅子(保健婦)、田中幹夫(弁護士)、加藤悦子(CAPNA)、安藤明夫(CAPNA)、草間吉男(日本子ども家庭総合研究所)、才村真理(帝塚山大学)、福島一雄(全国児童養護施設協議会)、加藤曜子(児童虐待防止協会)、津崎哲郎(大阪市児相)、石田雅弘(大阪市児相)、西澤哲(大阪大学)、山谷秀昭(品川児相)、松山京子(片瀬学園)、清水幸雄(児相研)、田中島晁子(児相研)、森田ゆり(虐待防止法改正を準備する会)、才村純(日本子ども家庭総合研究所)、平湯真人(弁護士)、吉田恒雄(駿河台大学)、奥山真紀子(埼玉県立小児医療センター)、森望(大分大学)、上出弘之(子どもの虐待防止センター)、磯谷文明(くれたけ法律事務所)、時田哲志(衆議院)、江川修己(自立援助ホームあすなろ荘)(25名)

平湯:趣旨説明
 現場、研究者間の情報交換を目的とする。改正に向けて、情報を有効に活かす。法改正に向けて働きかけを行う。

1.各分野の現状および法改正に向けての取り組み状況
(1)福島一雄(児童養護施設)
 新法で親子分離まではできるようになったが、その後のケアが問題。大都市周辺の施設では定員一杯の状態。あまりにも虐待された子どもが多くなりすぎて、なかには施設崩壊の報告も。被虐待児が6割を超えると、施設を維持していくのが難しいということも言われている。
 課題は施設内でのケア。心理職員もいるが生活指導職員との連携はまだ混迷している。全養協ではビデオを作るなど、研修を行っている。また全養協では見直しの検討委員会を作った。

(2)西澤哲(大阪大学)
 児童養護施設に心理職を置くことが多くなっている。国では150施設に配置している。埼玉や三重などは県も心理職を雇用している。ただ地域格差が大きく、入所した施設によって受けられるサービスに差がある。
 一方、心理職を入れても、施設側もどう使っていいか分からない。心理職の自主的なネットワークを組んで勉強しているところもあるが、児童相談所がリードしているネットはうまくいっていない。臨床心理学会も施設ケアについて委員会を設けて取り組みを始めている。心理的な問題行動を中心に全国レベルの実態調査が予定されている。
 施設も、これまでのような関わりだけではなく、ケアをめぐって混乱している。施設内での性的虐待というと、これまでは職員からというイメージだったが、子ども間での虐待が意識され始めている。

(3)徳永雅子(世田谷保健所)
 厚生省では2001年から2010年までの計画「健やか親子21」があり、①思春期保健の推進、②妊娠・出産、③小児医療保健の推進、④子どもの心の健やかな成長と育児不安の解消が柱。早期発見のための検診を見直そうということで、スクリーニングに関するビデオを作り、2000本くらい配布する予定である。
 もうひとつは親支援。MCGをやるところもあり、保健所でグループミーティングができるよう取り組んでいる。日本看護協会でもグループミーティングに関するビデオを作り、2000本くらい配布する予定である。

(4)上出弘之(子どもの虐待防止センター)
 NPOとしての全国的な取り組みはいまだ見られない。
 CCAPとしては、都児童相談所と協定書を交わしたのが大きな前進。民間団体の守秘義務の態勢整備も進めている。児童相談所から措置をした親のケアを虐待防止センターに依頼するということも始まっている。財政基盤の問題は頭が痛い。行政が民間と連携するのであれば、その財政的基盤を充実する手立てを講じるべき。
 児童虐待防止法の見直しについては、NPOとして全国的な取り組みはいまだに見られない。

(5)安藤明夫(CAPNA)
 名古屋大会は市民集会を含めると4500名も集まった。その後、朝日新聞社の福祉賞を受賞。しかし、その後も悲惨な事件が続いている。弁護団60数名いるが、やはり一部に集中する傾向があり、不眠不休の感あり。電話相談も頑張っている。電話相談員の養成講座も行われている。
 財政基盤は悩ましいところ。固定収入は500万円くらいなのに、年間の支出は1000万円。あとは不安定な収入に頼っている。有給スタッフも1名いたが、いまはボランティアだけでやっている。
 神戸大会までには、虐待統計を出したい。速報値では、せっかん死は増えていないが、嬰児殺は増えているようだ。

(6)田中幹夫(JASPCAN)
 新法の前は、児童福祉法および民法の改正案を提出したが一顧だにされず、当会の意見も聞かないまま新法ができてしまった。せめてということで昨年5月に児童虐待防止法の運用について要望書を提出。付則2条に見直し論があることが唯一の救い。制度検討委員会で現場のアンケートをとり、現在の矛盾点を研究して当局に提出したい。
 日弁連は78年に子どもの人権擁護を提言した。個人的意見としては、子どもの権利については、子どもの権利基本法を作って定め(虐待の定義もここに盛り込む)、児童福祉法は組織法とする。今回の防止法は屋根にかけるビニールシートのようなもの。気に入らないからといって取り去るわけにはいかないが、何とか子どもの権利を盛り込みたい。

(7)草間吉男(養護施設出身者)
 養護施設出身者や関係者が声をあげることが多くなってきている。「がんばれ養護施設出身者」のホームページなどを参照してほしい。施設出身者が頑張っているのはカナダ。施設体験者の意見を法律的に位置付けるべき。施設内での上級生からの虐待(いじめ)も第2条に加えるべき。子ども同士の虐待は非常に深刻。第3条では職員の人材確保は重要だが、予算を充実させることが重要(予算をつけないまま要求ばかり多いと、過剰労働で破綻するのは見えている)。広報よりもその法が重要。

(8)津崎哲郎(大阪市中央児童相談所)
 児童相談所現場では件数がどんどん増え、職員はあっぷあっぷの状態。自分たちではとてもできないから、ネットワークづくりはむしろ一生懸命やっている。ただ、発見を主目的としたネットがほとんど。2割が分離保護で、8割は在宅支援。在宅の場合、どのように長期的スパンで支えていくのかというネットが不足している。
 新法の制定により予算はつけやすくなっている(議会でも議員から必ず問われ、行政は予算をつけざるを得ない)。厚生労働省は各自治体での職員数を公開しているが、かなり差がある。一部では虐待対策課をつくる動きがある。ただ、親にとっては「虐待対策課」の名称は抵抗あるようだ。大阪府警は「レスキューチーム」というハイカラな名前をつけた。
 新法は発見と早期対応に重点。権限を児童相談所に集中させているが、実際にその権限を行使した時に、どのような付随的な現象が出てくるのかをまったく考えていない。親が血相を変えて乗り込んできたとき、どう対応してよいか分からない。大阪市は警備員を配置するよう予算要求をしている(施設管理ではなく屈強な警備員)。
 立入調査もよくやるが、閉じこもりが困る。閉じこもったまま家裁に申し立てたところ、家裁は取り下げてくれという。「ケースワークの問題で、家裁の問題ではない」と。
 家裁も、審理が遅いと非難されてきたが、最近は逆に早く早くという傾向にある。うまくいかないと、取り下げろという。また、迅速な判断のために資料をきちんとそろえろと言うが、そんなことをすると迅速な申立はできない。
 大阪家裁は参与員をつけるが、虐待のわかる参与員ということで、大阪家裁は児童相談所のOBを3人ほど参与員として採用した。家裁の態勢づくりが課題。 最近、児童相談所と親は「対立当事者」だと述べ、児童相談所の心理職員の判定ではなく「第三者の意見をもってこい」と言う裁判官もいた。親権喪失制度の活用はいいが、後見人が立てられない。公的な後見人を立てなければ利用できない。
 あるケースでは、同意で里親に措置したところ、4年後に返せという。家裁は里親に監護権を認めたが、高裁は破棄差し戻し。「わが国の監護権は、親族以外に認めることを予定されていない」。その後、親が人身保護請求をかけて、あっさり子どもを奪われてしまった。子どもはすでに里親と愛着関係があり、子どもの福祉にとってきわめてゆゆしき事態。法律の不備と言わざるを得ない。

(9)清水幸雄(東京児相研、小平児相)
 児相研の例会でも虐待のテーマが増え、その時には出席率も高い。
 中央児相に虐待対策課ができたが、地域児相との関係がまだ十分でない。1年たったので、交通整理が必要。
 児相と虐待防止センターとの関わりも児童福祉司によって様々。協定書がきっかけにうまくいくとよい。
 福祉事務所の役割も重要。保健所は頑張ってくれているので、ネットワークを広げていければと思う。
 虐待通報は、虐待は典型的な虐待も多いが、実態のない通報もかなりある。
 近隣関係のトラブルが原因になっているものもある。調査することで、調査を受ける側の人権が侵害されることもある。児童福祉司職務執行法があれば、安心して仕事ができる。

(10)田中島晁子(児相研)
 東京都では虐待対策課が28条や29条のまとめをしたが、これは対策課がなければできなかったこと。また、人手不足の児相を応援してくれることもある。
 全国レベルでは、青森が児相職員が倍々で急増している。全国児相研では児童相談所職員に対しアンケートをつくっている。

(11)奥山真紀子(埼玉県小児医療センター)
 通告に罰則が付されなかったことで、医師はほっとしている。昨年、自分でマニュアルを作って県の医師会あてに出したがあまり反応がない。逆に免責規定がないので「疑わしきは通報せず」という感じになっている。児童福祉では「疑わしきは、まず守る」のが鉄則。
 一方、児童相談所の動きは早くなった。通告すると、当日または翌日に来てくれるため、親との対立を引き受けてくれるので医者は楽になった。
 警察の動きにどうつきあうかが難しい。警察もどう動いてよいのか分からないのだろう。そういう場合、医療関係者に意見を求められるが、医療関係者も司法とどうかかわっていいか分からない。
 児童精神科医がとにかく足りない。それに児童精神科医といっても自閉症をやっていた人が急に虐待をやるというのも難しい。

(12)磯谷文明(くれたけ法律事務所)
 日弁連では福祉小委員会で、新法がどれだけ使えるかを議論している。弁護士会全体の関心としては、徐々にで増えてはいるが、まだ地域差がある。

(14)森田ゆり(改正を準備する会)
 新法には大きな失望とショック。以前、カリフォルニアでロビー活動もしていたので、こんなかたちで法律が作られることにカルチャーショック。昨年10月に国会議員の集まりに呼ばれたが、今後関心が薄れているだろうという危機感を抱いて、関西で「準備する会」を立ち上げ、昨年の愛知大会でお知らせしたところ、全国から参加申し込みがあった。
 新法の問題点として、児童の権利がうたわれていない。行政措置だけでは足りない。裁判所の関わる親権の一時預かりや保護命令があったほうがいい。ただ、DV法ができたことで、希望は少し大きくなった。現場の苦労の積み重ねがこのままでは実らない。

(15)吉田恒雄(駿河台大学)
 青少年問題特別委員会がなくなったので、見直しは厚生委員会の扱いになるだろうが、この委員会が扱うべき法案が非常に多いので、そのスケジュールにどう乗せるかが問題。内容的には党派間の合意が取りやすい。
 親権については、法務省は見直すつもりはないようだ。新権の一時停止についても慎重。家族<社会と法>学会では、施設長の親権代行権と親の監護権との調整を家庭裁判所でできるかという議論がなされたが、民法766条をそこまで拡大してよいのかという意見も強かった。

(16)時田(衆議院議員保坂展人事務所)
 本来、親権の一時停止を眼目とする法律だったが、残念。選挙の前後は政治家はよく話を聞くので、選挙後をめどに院内シンポでも開いてもらったらどうか。